Kyoto Shimbun 1996.6.17
緊急インタビュー
安楽死を問う (下)


医者と患者とは対等に向き合え

日本医学哲学倫理学会奈倉道隆・理事
 −京北町での出来事をどう思うか。

 「患者の意思が未確認だということばかりに注目が集まっているが、問題はもっと深い所にある。主治医が患者の意思を確認しなかったから『けしからん』と個人の問題ですむことではない。日本の医療は体質的に改めなければいけないものを持っており、その一端がここに表れた」

 −その問題とは。

 「まず、精神面でのターミナル・ケア(終末の医療)が普及していないことだ。もう1つはインフォームドコンセントのあり方。医療の現場では、まだまだ一般的にできにくい状況にある。また、もし本人が安楽死を望んだからといって、していいのか。社会的合意が得られていない状況では、やはり倫理に反する」

意向聞く努力を

 −日本の医療が改めなければならない体質とは。

 「『インフォームドコンセント』の言葉にしても、日本では『説明して同意を得る』としか位置づけられていない。医師が患者の同意を求めること、と理解されがちだが、それでは患者の主体性が損なわれてしまう。もっと患者の意向を言葉で聞こうとする、医師の側の努力が足りない。また、患者も自分に適した治療を受けたいとはっきり意思表示をすることが必要だ。医師を尊敬するのはいいが、上下関係でなく、治療という共通の目標を持った対等の立場でないと、ものは言えない」

−求められるターミナル・ケアとは。

「西洋と日本とは生命観も違う。西洋ではできるだけ死と向き合って戦うのに、日本では眠るようにあの世に行きたい、と願うのが一般的だ。ターミナルケアの技術が進んで90 %の痛みがコントロールできても、精神的な不安などがあるとわずかな苦痛でも強く感じる。その不安をソーシャルワーカーや宗教家たちが和らげられれば、生を充実させて、安らかな終末を迎えてもらうことが可能だ。家族も含め、患者が人間らしく生きられるようにケアすることが必要だ」

―がん患者への告知はどのようにするべきか。

「告知という言葉の理解に誤解がある。『あなたはがんです』というのは、告知ではなく宣告だ。告知は本人の希望を奪わないのが原則。医療が進み、がんのすべてが死に至るとは限らなくなった。患者や家族に希望を持たせながらコミュニケーションしていくことが大切だ。告知もターミナルケアの重要な内容で、ソーシャルワーカーとも相談しながら時間をかけて、精神的な負担を軽くしながらがんのことを伝えていけば、たとえそれが進行性のがんでも患者に受け止めてもらえる例は多い」

家族も支えて…

 −家族の不安、苦悩はどうするのか。

「ターミナルケアでは、患者に対するケアと同じぐらいのエネルギーで、家族も包み支えなければならないというのが定説だ。家族の不安が軽くなることで、患者本人の不安も軽減できる」

−自分自身、がんを怖いと思った体験はないか。

「実は、病院でがんではないかと疑いを持たれ、中途半端な情報を知らされて、かなりのパニックに陥ったことがある。がんの告知は、時間をかけてゆっくりと、十分にインフォームドコンセントを尽くして行ってほしい。主治医1人だけでなく、看護婦も含めた多くの人が総がかりで患者の精神面を支えてくれれば、と痛感した」

* * *
なぐら・みちたか  大阪府立大教授などを経て龍谷大教授(老年医学、老人福祉、仏教現代化論)。医学博士。僧籍も持つ。61歳。

▲インターネット・インタビュー