Kyoto Shimbun 1997.7.10 [かくれ名所案内]

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 流し帯を配した床の間の花
 袋中庵の山階御流
 八瀬の尼寺に伝わる
  小さな花世界


 花屋の店先には外国産の花々があふれ、家々のベランダには花鉢がひしめき、大量の花を使ったいけばな展が次から次へと開かれる。花の大量生産大量消費―こんな時代に逆行するいけばながある。山階御流。京の尼寺でひそかにはぐくまれた。同流家元、賀幡圓定さん(53)を京都・八瀬の庵に訪ねて、小さな花世界をのぞいてみた。

迎え花 / 折り形/流し帯


 アジサイの花がつくばいに一輪。玄関の吊(つ)り花、廊下の掛け花、床の間や仏間にも。

 「今月はアジサイ月なんですよ」

 麻の縮みにアイのはかまの圓定さんは人なつっこい笑顔を見せた。部屋部屋のふすまはとりはずされ、すだれを通して高野川の風が庵内を清める。

 袋中庵。江戸初期、袋中上人によって開創された尼寺。山階御流はこの寺に伝わる挿花をもとに明治初年創流。圓定さんは六世家元である。「山階御流という名前はありますが、いけばな流派とか家元とか、そんなおおげさなものではないんですよ」と圓定さん。


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クガイ草とホタルブクロを生
ける圓定さん
日用の道具、身の回りの花で

 「成り立ちからして、尼僧方の仏道修行の暮らしの一環としての挿花であって、それだけを取り上げて教えるという、挿花のひとり歩きはつい最近までなかったのです」

 雛(ひな)の祭りには桃の花一対を親王に見立て、祇園園祭には仏前にヒオウギやナデシコを供え、盆には水を張った手向けの水鉢にハスの花を浮かせて餓鬼に施す。

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つくばいの迎え花
 こうした四季折々の行事の中から生まれた独特の花世界。迎え花―何げない日用の道具を花器に用いる。折り形―祭りの際、扇や墨を贈る時の和紙包みを花で飾る。流し帯―きもの地で作ったリボンを長く垂らして花に添える…などなど。

 「花材も身の回りにある花ばかり。庭に花が咲けば、まず仏さまにお供えする。そして、その残り花を庵のあちこちに挿す。一枝一葉、命あるものを大切にとの仏の教えが基本になっています。よその流儀なら一杯しか入らない分量を三杯にも四杯にもいけるのです。貧乏性の花といいましょうか。決して鳴り物入りの奇をてらった派手な花ではないんです」

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仏前の花のごちそう
 圓定さんは高校時代、福島県の寺から上京、実姉である袋中庵住職圓純尼について仏道修行、寺に伝わる花作法に目を開かれた。今も仏に仕えながら花とともに暮らしている。

 これまで指南書など一切なかったが、先ごろ、その花暮らしを「袋中庵 幻の花」(世界文化社刊)と題する写真集にまとめた。尼僧の跡継ぎがないため、庵は当代で尼僧寺院としての命を終わってしまうからという。

 「代々の尼僧方がひっそりとはぐくまれたそれを、なんらかの形で残したいと思うからです」

 白、青、紫、紅…庵内にさまざまに挿されたアジサイの花。秘められた花は、どれもつつましく、やさしく、静かに心をうるおしてくれた。


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