The Kyoto Shimbun

第1部 「低下」騒動の裏側で(5)

社会を映す鏡 「格差」直視した議論を 公教育への期待踏まえ

 「226人が自分の道を歩み出します。新しい世界は想像以上につらい旅になるでしょうが、3年間、朱雀高校で培った自主自立の精神があります」  京都府内の公立高で卒業式が行われた一日。制服のない府立朱雀高(京都市中京区)では、振り袖やスーツに身を包んだ卒業生に見守られる中、代表が力強く答辞を述べ、会場の教職員や保護者らの感涙を誘った。

生活の乱れ背景に

 その約1カ月前。「豊かな情操と体力・学力を養い、社会人として自立できる力をつけて卒業してほしい」との書き出しで始まる文章が、卒業前の3年生にも配られた。全生徒の体調や生活リズム、学習についてアンケート調査した結果だった。

 睡眠が6時間を切ると、「体調が悪い」と訴える生徒の割合が高くなり、授業にも集中できていない。成績との関係では、6時間以上の生徒が平均3.27だったのに対し、6時間未満は3.01、睡眠時間がバラバラだと2.86まで低下した。

 同校が調査を始めたのは1996年。「学力低下は学習指導要領の改訂だけが要因ではない」。そんな直感から、生徒の生活実態の把握に乗り出した。

 養護の佐藤友子教諭は「生活リズムの乱れから、学習意欲が起きず、子どもの学力低下につながっている」と指摘する。

 「私なんて、生きてる意味がない」と保健室で訴える女子生徒。過剰な自己主張や虚言を繰り返す生徒も少なくない。「親から大事に思われているという実感がなく、自己肯定感を持てない子が増えている。育て方の文化が継承されているか、家庭によって差が生じている」

卒業式後、思い出が詰まった教室に集合した生徒ら。いつもの机に、晴れ着姿が少しそぐわない(京都市中京区・府立朱雀高)

「負け組」「勝ち組」
昨年12月、ある労働組合のメンバーが、進学校とされる私立高で話した時のことだ。法定最低賃金での生活実態を紹介し、生徒の問題意識を喚起する狙いだったが、一人の生徒が友人に語りかけた一言に驚いた。

 「最低賃金に関係ある人って、どうせ、『負け組』の人たちでしょう?」

 「自己責任を過度に求める社会の在り方が、子どもたちの心にも自分は『勝ち組』という意識を植えつけてしまったのか」と、その労組の幹部は案じる。

その場しのぎ脱却
 大人社会の光と影を確実に映し出す子どもたちに、教育はどう向き合えばいいのか。「子どもたちは生まれた環境によって選別されている。その現状を直視し、低位の子をどうするのか、公教育が考えなければならない時代だ」と、山科区の小学校教員は強調する。一方、できる子を伸ばす教育を公立学校に求める声は強く、中高一貫校や習熟度別学習が広がっている。

 「学力低下の背景を見れば、ゆとりか詰め込みかという、その場しのぎの施策では解決にならない」と、佐藤教諭は指摘する。社会の現状と関連づけた議論がなければ、「百年の計」であるべき教育はいつまでも揺れ続けることになりかねない。

(第1部おわり)

[京都新聞 2005年3月5日掲載]

自己責任
 自由と自己責任を前提に、競争原理を重視した新自由主義的な考え方が教育にも浸透してきている。個人の能力を伸ばす利点がある一方で、「勝ち組」「負け組」の二極化を進め、「弱者切り捨てにつながる」との批判もある。

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