The Kyoto Shimbun

第3部 教壇から(1)

もう限界です 子どもと向き合えない 定年待たず今春は400人

 京都府中部に住む川田智子さん(52)=仮名=は今春、31年間に及ぶ教員生活にピリオドを打った。

 退職までの10年、小学校の通級指導教室で発達障害児らの指導に当たってきたが、今年は普通学級への異動が確実だった。「担任として35人の子どもたちと立ち向かうエネルギーが今の自分にあるのか」と自問した途端、胸に痛みが走った。

 「あの4年3組を繰り返すかもしれない」

学級崩壊の恐怖
 かつて味わった学級崩壊のつらい日々がよみがえった。

 担任が新しいクラスをまとめられるかどうかの勝負は5月の連休まで、といわれる。川田さんはそこでつまずいた。子どもたちは授業を聞かなくなり、川田さんを無視して騒いだ。「休み時間になると、逃げるように別棟の職員室まで戻った」。子どもたちに目が届かなくなり、弱い立場の子へのいじめが陰湿に進行した。

 最も手を焼いていた男子児童が欠席したある秋の日、川田さんは学級会を開き、問いかけた。「どうしたらクラスが良くなるかな?」。結局、「欠席裁判」に終わったばかりか、男子児童の親から抗議を受け、保護者会でも問題にされた。

 10年ぶりにその学校に赴任した。通級指導教室では普通学級から通ってくる子どもの変化がよく見える。「学級担任によって、発達障害のある子どもたちの表情が全く違う怖さを目の当たりにした」。最大の教育環境は教師だとあらためて思った。

 「今の子は天使にもなるし、一つ間違えば怪獣にもなる。周囲から『しんどそう』と思われる前に線を引きたかった」

 今春、府内で400人近い教員が定年を待たず教壇を去った。

「力の限界」「子どもが理解できない」…。理由はさまざまだが、京都府内で400人近い教員が今春、定年を待たずに教壇を去った(京都市内の小学校)

教えるもの枯渇
 「子どもたちに教えるものが枯渇した」と話すのは、京都市内で33年間教員を務めた中尾正人さん(56)だ。授業や生活指導についての報告書の提出など「職員室にこもる時間が増えた」と振り返る。「授業では子どもの一面しか分からなくても、一緒に遊ぶことで丸ごと分かる。一番大事な子どもと向き合う時間が持てなくなった」

 府南部に住む佐藤良子さん(55)=仮名=も今春、「心も体も限界」と、32年間の教員生活に区切りをつけた。「教育困難校」とされる学校で、けんかの仲裁ばかりの日々に消耗した。何よりも「子どもに何が必要かという議論ができず、トップダウンの押しつけばかりが強まる学校現場に疲れた」という。

ささやかな抵抗
 5月中旬、自宅近くに親子塾を開いた。学ぶ楽しさを1対1で教え、親の相談にも応じる。子どもたちとともにじっくりと歩んでいきたい…。

 「間違えたり、失敗したりしながら、学ぶ喜びを味わえる場で、公教育が本来目指すべき道を追求したい。今の教育界の流れに対するささやかな抵抗です」

◇    ◇


 子どもの多様化や評価制度の導入など、先生を取り巻く環境が変化しています。シリーズ「学力」とは?第3部では、その実情から学力問題の背景を探ります。

(「学力」とは?取材班 有賀美砂、西川邦臣)

[京都新聞 2005年7月12日掲載]

学級崩壊
 集団教育が成り立たない状況が続き、担任では解決できない状態を指す。1997年ごろから使われ始めた。全国連合小学校長会の昨夏の調査によると、抽出した1132学級のうち、13%の152学級が「崩壊」していたという。

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