The Kyoto Shimbun

第3部 教壇から(4)

「1億円」を育てる 「生きる力」こそ重要 試される民間人校長

 「おはよう」「おはようございます」。京都すばる高(京都市伏見区)の的場敏信校長(56)は、府立商から校名変更した2003年4月に就任した。毎朝、校門前で、登校してくる生徒を笑顔で迎える。「教員免許がなく、生徒を直接指導できないから、せめてもと思って…」

 的場校長は現在、全国で79人いる民間人校長の1人。宝酒造の伏見工場長時代、府教委が初めて行った民間人校長の募集で京都経営者協会から推薦を受け、教育界に飛び込んだ。

成果は進路実績
 「親の立場では、子どもの進路として『公立はちょっと…』という思いがあった」と、的場校長は明かす。公立校の進学実績に不安をぬぐえず、長男は中学、二男は高校から私立に進ませた。父親の決断を聞いた大学生の二男は、こう尋ねたという。「なぜ、そんなデンジャラス(危険)な世界に行くの?」

 「進路がきちっとしなければ中学生には選ばれない」。だからこそ、「民間人校長としての成果は進路実績」と明快だ。

府内唯一の民間人校長である的場さん。毎朝、校門で生徒を迎えるのが日課だ(京都市伏見区・京都すばる高)

民活導入で改革
 進学重視を打ち出したのは、就任後1年が過ぎようとしていたころ。「進路について、どう考えているのか」と進路指導部の教員に迫られ、「国公立大に挑戦できる生徒を2けた育てたい」と答えた。国公立大入試に備え、進学希望者が九割を占める情報科学科の教育課程に数学IIIや物理を取り入れ、平日の早朝や土曜日に補習を入れた。就職実績に定評のある商業系学科の教員も、生徒の資格取得につなげようと特別授業を始めるなど、「教員が組織として動く好循環が芽生えてきた」という。

 「学校を組織化し、改革プロセスを見せつければ、教員は変わり、学校は変わる」と話すのは、大阪府立の伝統校、高津高の木村智彦校長(59)だ。今春、着任時の現役合格率45%を60%にまで引き上げ、教育界に「高津復活」を鳴り響かせた。

 02年4月、住友金属工業から転身。60を超える改革を矢継ぎ早に断行した。保護者らから資金援助を受け、大手予備校講師による「保護者塾」を開くなど、民間活力を積極的に導入する。「教育界では公民融合化が始まっている。民間人校長は、そのシンボルであり、偉大な実験だ」と木村校長。半面、教職員組合から「弱者の切り捨てだ」と激しい抗議も受けた。

大学名より人間性
 進学実績の数値は校長の力量を検証する手法として有効だろう。一方で、生徒の人間性の育成など数字で表現できない視点が抜け落ちる懸念は否めない。社会から子どもたちの「生きる力」が問われ、企業では大学名よりも人物重視で採用する傾向が強まっている。就職してもすぐに辞めてしまう若者の増加も企業の動きに拍車をかける。

 「企業は採用時に、1人1億円の買い物をすると考える。ならば、1億円に見合う人材を育てなければならない」と的場校長。1億円に値するのは大学に進む学力以上に、社会を生き抜く力だろう。

[京都新聞 2005年7月15日掲載]

民間人校長
 文部科学省が進める民間活用による教育改革の一環で、2000年度から教員免許がなくても校長になれるようになった。79人が在任中で高校には47人がいる。03年3月には銀行出身の民間人校長が学校運営に悩んで自殺した。

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