The Kyoto Shimbun

第3部 教壇から(5)

だから、先生に 不信感持った経験 糧に 子どもの話親身に聞ける

 昨年5月、埼玉県所沢市の県立高で、3年の男子生徒が試験のカンニングを疑われた。別室で2時間にわたって5人の教師に事情を聞かれた後、ビルから飛び降り、自殺する。「そのニュースを聞いて、中学2年の自分が重なった」と、佛教大3年の松本多美子さん(20)は打ち明ける。

いきなり怒鳴り声
 中学2年の2学期。騒がしい教室の左端の席で、友人と雑談していた。いきなり、担任からチョークを投げつけられ、「うるさいんじゃー」と怒鳴り声を浴びせられた。なぜ、自分だけが、という不満が沸き上がり、思わず吐き捨てた。「あんたのこと先生やと思ってへん」

 別室に連れて行かれ、入れ代わり立ち代わり、全教員に事情を聞かれた。どの先生も本当に自分の思いを聞こうとしてくれない、と感じた。思いをうまく言葉にできないまま、「あなたが悪い」「担任に謝れ」という言葉が心に突き刺さった。

 次第に休みがちになり、自宅に迎えにきてくれる友達にさえ、突然キレるようになった。死にたい、と思い始めていた。

 ある夜、自宅の階段を下りていると、両親の話し声が聞こえてきた。「義務教育なのに。学校に行かせろ」と父。すると、母が穏やかに答えた。「何か思ったら自分から話しに来るやろし、今は待たなしゃあないわ。きつく言ったら、また、あの子をしんどくさせてしまう」

教師を目指す松本さん。「先生になりたい」という気持ちが日に日に強まっている(亀岡市・千代川小)

居場所がここに
 自分を受け止めてくれる人がここにいる。ここに自分の居場所がある。「母がいなければ、プレッシャーとストレスの中で死を選んでいたと思う。それ以来、『先生は悪い。信用できない』という意識が頭から離れなかった」。高校のウエイトリフティング部を辞めようとした時、目に涙をためて引き留めてくれた先生でさえ、その不信感をぬぐうことはできなかった。

 大学進学を前に、将来について考えた時だった。中学2年以来、教師という存在が頭から離れなかったことで、皮肉にも、教師という職業しか思い浮かばなかった。「あんな体験をした自分なら、子どもの話をちゃんと聞ける先生になれるんじゃないだろうか」。そして、教師への道を歩み始めた。

 6月28日から、亀岡市立千代川小でインターンシップに参加している。小林進校長から「同じ子でも毎日、目の表情が変わる。教師は血の通った人間相手の仕事。だからこそ、ドラマチックな場面に出会える」と聞かされ、何度もうなずく。

目指せ、ほんもの
 昼休み。担当している2年2組の女の子に「先生はまだ、ほんまの先生と違うんやろ?」と尋ねられた。「そうや。『目指せ、本物』って応援してな」。すると、数人の女の子が声をそろえ、にぎりこぶしまでふりあげて「目指せ、ほんものー」とエールをくれた。「子どもの気持ちがわかっている」と、指導する教員らも期待を寄せる。

 「今は、中学2年の自分に『あの時、死なないでくれてありがとう』と、心から言いたい」

(第3部おわり)

[京都新聞 2005年7月16日掲載]

教員採用試験
 都道府県と政令市の教育委員会ごとに実施しており、京滋でも7月末からスタートする。「団塊の世代」の大量退職を見据えて、採用数を増やす教委が多く、教員の質の確保が課題になっている。

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