The Kyoto Shimbun

第4部 受験狂騒曲(5)

もっと実験を 面白さ「実感」こそ基本 高校などで軽視傾向

 「パン」。大きな音がした瞬間、京都府立洛北高付属中の理科室に、1年生27人の驚きの声が満ちた。少し水が入った空き缶をバーナーで熱して沸騰させた後、水槽に入れて冷やした途端、大気の圧力でひしゃげたのだ。

 興奮冷めやらぬ生徒に向かって、米津和典教諭が「圧力がかかったと思う面に矢印を入れてください」と指示する。生徒は缶の無残な姿から推論し、思い思いに矢印を書き込んでいく。

考える材料与える
 「実感を伴った知識は大切。日常では実感しにくい大気圧の存在に何とか触れさせたい」。米津教諭は実験に使えそうな道具を買い込み、研究を重ねた。「子どもが『なぜだろう』と考える材料を与えてやるのが教員の仕事。そのためにできるだけ、実験を取り入れています」

 「洛北サイエンス」と題して中高一貫教育を展開する同中では週5回、理科の授業がある。週3回の他校に比べると、格段に恵まれた環境だ。

「何が起こるのかな」。興味津々で大気圧の実験に取り組む中学1年生(京都市左京区・府立洛北高付属中)

科学的思考の下地
 「ゆとり教育」を掲げる新学習指導要領は、科学的に探究する力を育てようと「観察・実験」を重視する姿勢を打ち出している。しかし、学習内容が削減される中で「科学的に物事を考える基本的な姿勢が身につかないまま、高校に上がってくる」(公立高教員)。その上、受験のプレッシャーから、実験を減らしてでも教科書の知識を詰め込ませる進学校も少なくない。実験の現状からは、公教育の「理想と現実」が見える。

 「高校では実際に物質に触れることはせず、文字の情報で化学を理解させようとしていた。化学の本質から外れているのではないですか?」

 京都大化学研究所の平竹潤助教授は以前、入学したばかりの学生から、理科教育の惨状を痛感させる言葉を聞かされた。高校時代、濃度の異なる試薬が入ったビーカーで化学反応が時間差で起こる実験を見たことがある。それが学問の道に進む「インパクト」になった平竹助教授にとっては、重い一言だった。

 「今日の高校生は明日の大学生。大学人として、源流をさかのぼる責任があるのではないか」。文部科学省のサイエンス・パートナーシップ・プログラムに加わり、府立桃山高で「出前実験」を始めて4年目だ。

積極的な学習塾も
 学習塾の成基学園グループも小、中学生向きの実験教室に取り組んでいる。白衣の中学生が、塩酸に水酸化ナトリウムを少しずつ注ぎ入れながら中和反応を体験している光景は一瞬、学校かと、見まがうほどだ。

 「保護者からは『受験に役立つの?』と聞かれる。だが、子どもの好奇心を刺激し、もっと知りたいという気持ちを育てるのが、私たちの目標」と、理数教育リーダーの小竹知紀さん。学校現場では受験を理由に実験が軽視され、受験産業が実験を通じた「学ぶ面白さ」に目を付ける矛盾。小竹さんは言う。「うちのような試みは本来、学校がすべき内容。こんな塾はない方が健全なのかもしれない」

(第4部おわり)

[京都新聞 2005年10月3日掲載]

サイエンス・パートナーシップ・プログラム
 理数教育の新たな試みとして、文部科学省が2002年度から実施。実験や観察などを重視し、大学や研究機関などの科学技術を研究する現場と、中学、高校など教育現場との連携を支援する。

▼前の記事次の記事▲

各ページの記事・写真は転用を禁じます
著作権は京都新聞社ならびに一部共同通信社に帰属します
ネットワーク上の著作権について―新聞・通信社が発信する情報をご利用の皆様に(日本新聞協会)
電子メディアおよび関連事業における個人情報の取り扱いについて
記事に対するご意見、ご感想はkpdesk@mb.kyoto-np.co.jp
京都新聞
京都新聞TOP