The Kyoto Shimbun

第5部 子どもからのSOS(3)

給食のリス顔 食軽視、かむ力育たず 手間かけぬ子育て象徴

 京都文教短大付属小(京都市左京区)の教室。「みなさまのおかげでできた、このごはんをいただきます」。小さな手を合わせた1年生が感謝の言葉を暗唱し、給食が始まる。その途端、示し合わせたように数人が立ち上がり、お皿の魚をトレーに戻そうと歩き出す。

 管理栄養士の夏田順子さんの声が響いた。「残そうとした人、少し食べてみて。どんな味がする?」

 席に戻った子は仕方なく、魚をかじってみる。「あれ、チーズの味がする」「おいしい」

給食をおいしそうに食べる小学1年生(京都市左京区・京都文教短大付属小)

親のかかわり薄く
 夏田さんは必ず、給食時間に教室を訪れ、子どもたちの反応を確かめる。最近、気になるのは、野菜などをほおにため込んだ「リス顔」で、口をもぐもぐさせている子がいることだ。奥歯でしっかりかめないので、いつまでも飲み込めない。カレーなら5分で平らげる子が、野菜いためだと30分以上かかる。

 こんな「リス顔」の子が小学校低学年で増えている。仁和小(上京区)の栄養職員、浅田光代さんは「成長に応じた食事を与えられていないから、食べる力が発達しない」と指摘する。

 赤ちゃんは本能的に乳を飲む力を持っているが、離乳後は学習が必要だ。口の発達に応じて食べ物を与えられないと、固いものまで前歯でかむようになる。浅田さんは「親が食事に手間をかけていない表れではないか」とみる。

 京都府立大の大谷貴美子助教授は昨年、京都市内の小学5年生を対象に食事を調査した。1週間の食事をカメラで写し、同時に「昨日の夕食風景」を絵にしてもらう。色の乏しい写真からは野菜や果物不足がうかがえ、絵には献立同士につながりのない「たこ焼き、グラタン、するめ」。7割は食卓に人物が登場せず、家族のかかわりの薄さを感じさせた。

食卓、子の居場所に
 大谷助教授は「今は子どもが食べてくれるものだけを与える食になっている。めんどうなことを避ける育て方を象徴している」と話す。「食卓は家族が相互理解を深め、子どもが自分の居場所を認識する大切な場でもある。今や、母親が乳を与えながら、片手で携帯電話を使う時代。最初の食事の場面から親子の情緒的交流が欠けている」

おいしさ教えよう
 京都文教短大付属小はかつおと昆布のだしをベースにした、昔ながらの「おばんざい」を積極的に取り入れている。鳥インフルエンザの影響でカレーに鶏がらでなく、だしを使った時だ。ある子が妙な顔をした。「おそば屋さんのカレーみたい」

 「あの一言はうれしかった」と夏田さん。「6年間、食べることの大切さを指導すればちゃんと味覚も育ってくれるのではないかと期待している」

 「ニッポン全国マヨネーズ中毒」などの著書がある京都大農学研究科の伏木亨教授は「苦味や酸味は、本能では害のあるものと認識される。子どもはそのおいしさを後天的に大人から学ぶ。その過程で物事を相対的に見る感覚が育ち、おいしいと感じれば表現力も養われ、人間の幅につながる」と話す。

 生きる力という新しい学力は食べる行為につまっている。

[京都新聞 2005年12月19日掲載]

朝食と学力テスト
 和歌山県教委の調査によると、小学4年で朝食を毎日食べる子の平均が73.5点だったのに対し、食べない子は57.6点。中学1年でも食べる子が62.7点で、食べない子が57.1点と同様の傾向を示した。

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