The Kyoto Shimbun

第5部 子どもからのSOS(4)

仮想現実 「リセット」で命も再生 幼少期から情報の渦に

 今春のある日、京都市左京区内の幼稚園長は、5歳の男の子の行動に目を疑った。園の入り口付近で、地面に足を必死にこすりつけている。行列をつくるアリを踏みつぶしていたのだ。「なんでそんなことするの」。駆け寄って注意した園長は、男児の言葉に再び驚いた。

 「だって、スイッチを入れたら生き返るもん」

 母親に聞くと、男児は自宅での時間の多くを、テレビゲームに充てていた。負けそうになると、リセットボタンを押して一からやり直す。「生き物とバーチャル(仮想)の世界の違いが分からなくなっていることを思い知った」。園長は振り返る。

 パソコンに携帯電話、テレビゲーム…。さまざまな情報機器が家庭に普及し、機器に初めて触れる時期も低年齢化した。広島市が昨年、幼稚園と保育園の保護者に実施したアンケートでは、テレビゲームを始める年齢を「5歳未満」とする回答が、計70.4%にものぼった。「園児たち、特に男の子の話の中心はゲームのキャラクター。ゲームは生活の重要な要素」。京都市内の保育園長も指摘する。

想像力を働かせて工作に取り組む児童たち。同じ設計図でも、同じ作品は生まれない(京都市伏見区・石田小)

立体的な表現苦手
 「今の子どもたちは、作品を立体的に表現できない。薄っぺらい平面的なものになってしまう」と話すのは、石田小(伏見区)教務主任の今西雅美教諭だ。市図画工作教育研究会に所属しているが、20-30年前と比べ、児童の作品が大きく変わってきたと実感する。

 「人の形を作らせると、昔はいろんな部品を切り抜いて手や足、人を乗せるバイクまでも精巧に作った。今は一筆書きのように紙を切り抜いて張るだけ」。絵にしても、画用紙にべたっと色を塗る子が多く、平面をただ埋めればいいという作品が目立つという。「画面という平面の中で動くテレビゲームが、その一因ではないか」。今西教諭は分析する。

のみ込み早いが…
 同小は、4年前から図画工作の授業に「動くおもちゃ」づくりを取り入れた。児童たちは配られた設計図を基に、段ボールやストロー、輪ゴムなどを使って、人形の手足が動いたり、箱から動物が飛び出る作品をつくる。

 おもちゃづくりを始めてみて、最近の児童のほうが設計図を早く理解することに気付いた。「のみ込みが早く、同じものを再現する力はたけている。しかし、そこから想像が広がらない」。マニュアルを読み、与えられたゲームに興じる子どもたちの姿が重なる。「テレビゲームだけでなく、遊び全体が受け身になっている」

体験で学ぶ機会を
 アリを踏みつぶした園児に、園長は「命は一回なくなると生き返らないの」と言い聞かせた。子どもたちが、泥にまみれたり神社で遊んだりして、体験から学ぶ機会が減ったと感じる。「『汚れると、着て帰る服がなくなるからだめ』と泥遊びさせない親がいる。親が子どもの学びを奪っていないか」と園長は投げかける。

[京都新聞 2005年12月20日掲載]

子どもとテレビゲーム
 3歳―小学6年を対象にしたコンピュータエンターテインメント協会の2004年調査では、28.1%がテレビゲームをほとんど毎日すると回答。平日の利用時間は21-40分が最多(31.2%)だった。

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