The Kyoto Shimbun

第5部 子どもからのSOS(5)

子ども力 「待つ」大人 成長を促す 寄り添える社会実現を

 「いないいないばあ、にゃあにゃがほらほら、いないいない…ばあ」。八幡市母子健康センターで市民図書館の司書、出口宏子さんがロングセラーの絵本「いないいないばあ」を読み始める。聞かせる相手は子どもではない。大きなおなかをした女性たちだ。最後に出口さんは語りかける。「絵本は知識や言葉を獲得する道具ではありません。どんな風に周りの大人が自分に接してくれたかという、記憶を残せるものなんです」

「絵本を通じて子どもに向き合ってほしい」と、もうすぐ母になる女性に絵本を読み聞かせる(八幡市母子健康センター)

親が不可解な訴え
 「夜泣きをやめさせる絵本を出して」「ごはんを食べない。何を読めばいいの」「一日中機嫌が悪い。良くする本は?」

 図書館の窓口に不可解な訴えが寄せられるようになったのは10年前。同じころ、八幡市のベテラン保健師、小笠原孝栄さんらも子どもの異変を感じていた。

 「1歳6カ月になると10近い単語を覚え、相手を理解できるはずなのに、人の気持ちをくみ取れない子が増えている」

母親に読み聞かせ
 今の親は子どもとうまく向き合えていないのではないか。

 こんな問題意識を共有し、出口さんと保健師が連携して始めたのが、出産前や出産後3、6カ月の女性たちへの絵本の読み聞かせだ。出口さんは「絵本の読み聞かせは知力や学力を受け入れるための、『器』を大きくする心を養うもの。それには大人が徹底的に寄り添い、共感してやることが大切」と話す。

 「おばちゃん、何の石?」

 学校帰りに石を拾って図書館に持ち込む子がいた。ダイヤモンドを探していたらしい。毎日、司書と一緒に石の図鑑を広げ、「これとは違うね」とページをめくるうち、「なんで、難しい漢字を知ってるの?」と聞いてきた。漢和辞典を教えると、次の日から知らない漢字をすべて調べ始めた。「子どもは面白いと思ったら、どんな労力も惜しまない。それが『子ども力』。大人がそばにいないから、子ども力が低下し、学力低下につながる」と出口さんはいう。

何も変わってない
 京都市内の幼稚園長が園児の家庭を訪ねた時だ。2部屋ほどのマンションの一室。テーブルで向き合う母親の手にひもが見えた。少し視線をそらすと、3歳になる園児の背中にひもがつながっていた。理由を聞くと、うろうろすると気になるので着けている、と母親。園長は「便利で親は快適かもしれないが…。驚きよりも肌寒さを感じた」と振り返る。

 「物質的なゆとりの中で、親が子育てに大切な耐えるとか、待つということをしなくなった。子どもは何も変わっていない。変わったのは親であり、社会」。小児科医として40年間、子どもを見守る京都第二赤十字病院、澤田淳院長の言葉だ。

 子育てでも合理性が追求され、大人の都合が優先される。子どもが発するSOSは、そんな大人の姿を突きつけてくる。学力低下を考えるには、大人社会の在り方から考えていくべきなのだろう。

(第5部おわり)

[京都新聞 2005年12月21日掲載]

絵本の読み聞かせ
 赤ちゃんと保護者が絵本を介して向き合ってほしいと、自治体が絵本を配布する「ブックスタート」の取り組みが全国で広がっている。2005年10月末現在で全国630自治体、京滋では4市9町が実施している。

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