The Kyoto Shimbun
老健わたり 受け皿なく、はざまで揺れる
老健施設での歩行リハビリ
老健施設での歩行リハビリ。この女性は1年で要介護度が1ランク回復した(京都市伏見区・ハーモニーこが)

 老人保健施設(老健)を一定期間(3カ月−1年)ごとに転々と渡り歩く高齢者が増えているという。関係者の間では「老健わたり」などともささやかれる。なぜ、こんな事態が起きているのだろう。

 京都市左京区の女性(52)は、実母(80)が入所する老健から「入所半年になる5月半ばまでに退所してほしい」と要請されている。母は要介護3。2年半前に脳梗塞(こうそく)で倒れ、半身にまひがある。病院を出た後、特別養護老人ホームに入所申請したが、いまだに順番待ちの状態。女性も持病や仕事があり、自宅での介護は難しい。このため、これまで4カ所の老健を転々としてきた。

数か月ごと退所要請
 どの老健からも入所から3カ月−半年、長くても1年になると退所を迫られた。女性は「老人病院には入れたくないが、次の老健が見つからないとやむえないかもしれない」と表情を曇らせる。

 老健は1989年に制度化された。入院の必要のない人を対象に、理学療法士や作業療法士らが自宅に戻れるようにリハビリを施し、「社会的入院」を解消するのが狙いだった。「中間施設」とか「在宅復帰施設」などといわれる。

 2000年にスタートした介護保険では、特養、老人病院(療養型)と並ぶ三大介護施設に位置づけられ、急速に増えた。現在、京都で50施設、滋賀で26施設を数える。施設長が医師であることが必須であるため、大半は病院を経営する医療法人が本体。医療保険で病院のベット数規制が強まっているため「病院の新たな収入源にもなっている」(京都市内の医師)。

 ではなぜ、退所を迫るのか。制度化当初は、入所が半年を超えると施設の収入(介護報酬)が減る「逓減制」がその最大の理由だった。しかし、介護保険のスタートで逓減制は廃止されたはずだ。

自宅復帰率は4割
 滋賀県の老健施設長は「一定の目安を設けて、退所してもらわないと特養と同じになってしまう」と強調する。厚生労働省の全国調査で、老健の平均入所期間は200日を超え、自宅への復帰率は4割にとどまっている。「これでは在宅復帰という老健の役割が果たせない」というわけだ。

 一方で「在宅復帰率の高さは、施設の『売り』になる。退所の指導や新規入所者受け入れによって、収入が上乗せ(加算)される制度上のメリットもある」と話す関係者もいる。

 「老健わたり」「老健ジプシー」と呼ばれる事態が増えているのは、こうして退所させられた高齢者の受け皿がないからだ。身体機能が回復しても、家庭の事情などで自宅に戻れないことは少なくない。

 一昨年、特養ホームの入所が「待機順」から「重度や緊急度などによる優先入所」に切り替わったことも大きい。老健入所者は施設利用者とみなされて後回しにされる傾向にあり「老健わたりに拍車をかけている」(宇治市内の女性ケアマネジャー)。

 京都市伏見区の老健「ハーモニーこが」の施設長、角谷増喜医師は「高齢者、特に認知(痴呆)症の場合、環境の急激な変化が問題行動を誘発することが多い。うちでは無理な退所は避けている」と前置きしつつ「入所が長期化すると、リハビリによって在宅復帰できる人が入れなくなる。板挟みだ」と打ち明ける。

 それでも同施設では、老健では珍しい「ユニットケア」(小集団に分けた介護)や「逆デイサービス」(施設入所者を日中、近くの民家で介護)を実施し「施設を暮らしの場に近づけ、家に戻りやすくしている」。併設の短期入所施設(ショートステイ)を活用し、在宅支援に力を入れる老健も増えている。

 医療と介護、病院と老人ホーム、施設と自宅…。そのはざまで、老健は揺れている。「中間施設でなく、中途半端施設になりかねない」。そんな危機感さえ漂う中、現場では苦闘が続いている。

[京都新聞 2005年4月23日掲載]

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