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紙屋川の砂防ダム内集落 住民との対話が不可欠

社会報道部 辻智也
紙屋川の谷底に家々がひしめく集落 (1日、京都市北区)

 京都市北区の紙屋川の砂防ダム内に、50年以上前から「不法占拠」の住宅が多く建ち、人が暮らしている。昨年から、京都府が立ち退きを視野に動き出したが、住民の間で不安と反発が広がる。問題の解決には丁寧な対話が欠かせない。

 集落は、ダム堤防のすぐ上流のすり鉢のような谷底にある。紙屋川沿いの約50軒に約50人が暮らす。1953年のダム完成直後から、建設に関わった人が住み着いたというが、明確な成り立ちは不明だ。住民の大半は在日韓国・朝鮮人で高齢化が著しい。

 新年から始まったシリーズ連載「深層わがまち」の取材で、45年前から暮らす在日韓国人の国本百合子さん(83)に話を聞いた。差別でアパートを借りられず集落に移住し、建設工事で生計を立てながら一人で3人の子を育てた。「まわりに嫌われ、行き場のない人ばかりが寄った」と話す言葉が悲しく印象に残った。

 周囲の住宅地の住民からは「誰が住んでいるか分からず、怖い場所」という声も聞いた。孤立する集落の住民にとって、ダム内の生活は危険と隣り合わせだ。大雨のたびに浸水し、過去20年で5回も被災した。

 昨年7月の豪雨で集落はほぼ水没し、過去最悪の被害が出た。高齢者たちは消防隊員に救助され、一命を取り留めた。これを機に、府は市、国と連携し、本年度から本格的な対策に乗り出すが、「不法占拠」の解消という観点だけで取り組むべきではない。この問題を放置すれば、住民の命の危機に直結する。

 ただ、大半の住民に立ち退きの意思はない。府が長年黙認状態を続けてきたこともあり、「なぜ今更」という思いが広がっている。

 市内にはかつて南区東九条の鴨川河川敷にも、在日韓国・朝鮮人らが多く住む大規模な集落があった。府などが立ち退きを求めたが、住民の自治会が学識経験者らを交えて行政と交渉。9年前までに新たな団地が近くに建ち、多くの住民が移住した。団地建設は平安建都1200年に合わせた環境整備という側面もあった。

 一方、紙屋川では、団地建設などの潤沢な予算が期待できるだけの盛り上がりは見せておらず、立ち退き後の住民生活の見通しは立たない。集落内に自治会組織は存在せず、住民自身も将来像を描けないでいる。

 東九条で地域の支援を続けていた宇野豊さん(53)は「紙屋川の集落は東九条と同様、差別と貧困が生んだ。住民同士のつながりがあるなら、最悪でも一緒に住める形にしないと」と指摘する。

 3月、集落を訪ねると、国本さんが集落の仲間とおしゃべりを楽しんでいた。寄り添った人びとの笑顔があった。行政だけで強引な解決を図らず、苦難を生きた住民の声に耳を傾け、ともに納得できる道を探るべきだ。

[京都新聞 2013年4月3日掲載]

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