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累犯障害者に無罪判決 社会の受け皿、乏しい現実

報道部 本田貴信

無罪となった累犯障害者の男性を支援する職員が、ファイルから手紙を取り出した。拘置所で男性が記した拙い平仮名が並んでいた(京都市内)=画像の一部を修正しています

 京都地裁で8月、累犯障害者の男性を心神喪失により無罪とする判決があった。男性は司法による矯正から福祉の支援を受ける立場へ移った。ただ、男性の関係者は判決を手放しでは喜んでいない。その姿は、政策として「司法と福祉の橋渡し」が強調される中でも、社会の受け皿が乏しい現実を映し出している。

 判決を言い渡された京都市の男性(36)が戸惑うようにして小柄な体を弁護人に向けた。「もう帰れるんだよ」。肩をたたかれた男性はようやく表情を緩め、声を大きくした。「免許取る。絶対に」。会話はかみ合わなかった。

 男性は車を盗んだとして常習累犯窃盗罪に問われた。精神鑑定で知能指数25、精神年齢4歳7カ月で重度知的障害と判定された。判決は「違法性を真に理解できておらず、行動制御能力が欠けている」とし、刑事責任能力がなかったと認定した。

 弁護側の主張を採用した判決だったが、弁護人に笑顔はなかった。「司法は男性にとって無力だった。再犯と服役の連鎖を、どこかで断ち切れなかったのか」

 男性は自動車盗を繰り返し、13年前から窃盗と常習累犯窃盗の罪で計5回、服役している。今回を除き、いずれも出所後2週間以内の再犯だった。

 傍聴席で障害者支援施設の男性職員(41)は、今後の段取りに頭を巡らせた。即座の支援がいる。「刑務所は男性を隔離するためだけの施設だった。ぜい弱でリスクはあっても、福祉資源で支えるしかない」。拘置所で男性を出迎え、急きょ、その日のホームヘルパーを手配した。

 職員と男性が初めて対面したのは3年前、刑務所の面会室だった。出所を控えた男性から話を聞き、各種事業所の福祉サービスを用意するためだ。しかし、犯罪歴や生育歴を記した男性の書面を見て、多くの事業所が責任問題や他の利用者の安全を理由に受け入れを断った。

 ホームヘルパーの訪問に加え、施設への通所が決まったが、週3回の通所は、施設側の人員態勢などから1回に減った。それでも、男性は職員らと関係を築き、懸案だった別種の問題行動は緩和した。この点は、今回の判決も「適切な支援・指導がなされた」と認めたが、その後、再び車を盗んでしまった。

 判決から1週間後の9月上旬、男性を支える福祉関係者が集まった。通所を週3回に増やす。外出に付き添うヘルパーを派遣する。障害の特性を見極めて対応するため、専門機関の協力を仰ぐ−。支援計画の話し合いは2時間に及んだ。

 職員が勤める施設の所長(51)は「われわれの役目は、男性なりに社会の中で生きていくための方法を第一に考えること。無罪判決は免罪符にならない」と話す。男性は今、トラブルなく過ごしているという。

[京都新聞 2013年10月9日掲載]

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