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自主避難めぐる司法判断 戻れぬ心情と苦境、直視を

報道部 相見昌範
福島県内に積まれている汚染土。被ばくのリスクをどう評価するか、被災者と政府で判断の溝は大きい(2016年3月1日、福島県楢葉町)
福島県内に積まれている汚染土。被ばくのリスクをどう評価するか、被災者と政府で判断の溝は大きい(2016年3月1日、福島県楢葉町)

 東京電力福島第1原発事故で福島県内から京都市に自主避難した男性の一家に対し、東電が3千万円の損害賠償を支払うよう命じた京都地裁判決(2月18日)。自主避難者への初の賠償命令となり、注目されたが、自主避難者が置かれている苦境を考えると厳しい判断の部分も含まれる。両面合わせて評価しなければ全体像を見失うように思う。

 判決によると、男性は妻と福島県内で会社を経営していたが、原発事故で、2011年5月に京都市に避難した。故郷を離れ、社長の辞任や転職などのストレスでうつ病になり、働けなくなった。

 今回の判決が、被災者の個別事情に向き合ったことは評価したい。東電が自主避難者に支払う賠償基準の政府指針には、休業損害が損害項目に入っていないが、判決は、夫婦で計2100万円の休業損害の支払いを命じた。

 「現行の枠組みに納得できない人の損害を回復する先鞭(せんべん)となった」と原告側の井戸謙一弁護士。東電が自主避難者に支払う賠償額は避難指示区域より低い。裁判外紛争解決手続きの和解案より1900万円多い賠償を、京都地裁は命じた。

 一方、判決には自主避難者にとって受け入れがたい点もある。自主避難する合理性を「12年8月まで」に限ったことだ。

 「日本の法令は被ばく限度を年1ミリシーベルトと定めており、一家が住んでいた福島県内の自治体は今も超えている」と原告側は主張。しかし判決は、「避難指示の基準にもした年20ミリシーベルトは国際機関の勧告による。それを下回る被ばくで健康被害を認めるのは困難」と判断。一家の居住地は、12年9月以降に年20ミリシーベルトを下回ったとした。

 3・11から5年たっても、自主避難者を取り巻く厳しい状況は変わっていない。

 「国や自治体は私たち自主避難者を切り捨てようとしている」。木津川市の女性(44)はこう憤りの声をあげる。

 専門家でも見解が定まっていない長期低線量被ばくの影響を懸念し、自主避難を続ける母子ら。仕事が見つからず生活保護で暮らす人も、古里との分断で帰れない事情がある人もいる。

 そんな自主避難者の支援策も盛り込んだ「原発事故による子ども・被災者支援法」は、成立したものの、実効性のある施策は伴わないままだ。福島県も来年3月末、自主避難者への住宅無償提供を打ち切る。

 避難に合理性があったのを12年8月までで打ち切った地裁判断は、妥当だろうか。

 今回の判決は原告、被告とも大阪高裁に控訴した。福島第1原発事故に関しては、京都地裁で自主避難者らが原告の集団賠償訴訟も係争中だ。司法が、立法府にも行政にも救済されない人の「最後の砦(とりで)」となるか、注視したい。

[京都新聞 2016年4月6日掲載]

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