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伊根舟屋「お試し住宅」 移住者ニーズ対応に疑問

宮津支局 三皷慎太郎
舟屋を改装したお試し住宅(奥から2番目)。移住に結び付けるにはソフト面のフォローも必要だ=京都府伊根町平田
舟屋を改装したお試し住宅(奥から2番目)。移住に結び付けるにはソフト面のフォローも必要だ=京都府伊根町平田

 京都府伊根町は移住を考える人向けに、一時的に居住できる「お試し住宅」を整備した。舟屋を改装した住宅で、湾に面した伊根らしい生活を体験できそうだ。移住促進の対策として一歩前進したが、「3カ月」の期間設定が足かせになっているのか、肝心の利用申し込みは4月の募集開始以降まだない。全国の自治体が移住者の取り込みにしのぎを削る中、当事者のニーズを捉えた施設なのか、疑問がぬぐえない。

 お試し住宅は、同町平田の空き家を約680万円かけて改装した。賃料は月2万5千円。3カ月の期間設定について、町企画観光課は「旅行感覚ではなく伊根に住む覚悟を決めた人に来てもらいたいため」とする。そのスタンスは理解できるが、都市部から遠く交通アクセスも悪い中、移住候補地として選択肢に入れてもらえるだろうか。

 「人間関係などの基盤がないと、伊根で新しい仕事や住まいを3カ月で探すのは難しい」。町に移住し、4月から水産会社で働く奈良県出身の今村大志さん(27)は話す。水産業の担い手を育成する府の「海の民学舎」で過ごすなど、移住するまで宮津市などに4年間住んだ。現在住む古民家も知り合いのつてを頼って手に入れた。

 移住は一大決心を伴う。府の「京都移住コンシェルジュ」の千葉明日香さんは「地域にどんな人がいて、どんな暮らしをしているのかを知りたい人が多い。その上で、自分が住むイメージが沸いてくると移住につながりやすい」と指摘する。

 隣の京丹後市では、最短3日から何度でも利用できるお試し住宅を整備し、5月から運用を始めた。市企画政策課は「いきなり移住となると抵抗がある。気軽に何度も足を運んで地域を知ってもらいたい」と語る。北海道出身の女性を専門の移住支援員として同課に置き、農業体験をコーディネートしたり地元の人や先輩移住者との交流の場を設定するなど、丁寧なフォローを手掛ける。

 大型連休にお試し住宅を利用した大阪市の20代会社員女性は「いろんな人とつながりができ、同世代のコミュニティーも紹介してもらって不安も解消できた。京丹後で生活するイメージが沸いた」と満足そうだ。1月から計5回、同市を訪れており、移住の決意を固めつつあるという。

 伊根町の3カ月の期間はどっちつかずに感じる。お試し住宅を利用するには今の仕事をやめるか、長期休業する必要がある。「お試し」とはいえ、利用者には相当の覚悟が求められる。逆に、移住を決心した人でも、3カ月間で仕事や住居など今後の生活を見通すのは容易ではない。

 伊根町は新規漁業就業者への漁具や漁船の購入費補助、経営開始後の所得補助などの施策を整えている。これらの支援制度に、きめ細やかなソフト面のフォローが結びついてこそ、理想的な移住定住に結びつくのではないか。

[京都新聞 2016年6月1日掲載]

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