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日本版NCAA創設方針 大学スポーツ、本質再認識を

運動部 小池直弘
満員の観衆の中で5月に開催された京都大と立命館大との一戦。大学スポーツの支持が広がるには文武両道の実践が欠かせない(京都市左京区・京都大農学部グラウンド)
満員の観衆の中で5月に開催された京都大と立命館大との一戦。大学スポーツの支持が広がるには文武両道の実践が欠かせない(京都市左京区・京都大農学部グラウンド)

 国が、米国の大学スポーツ統括団体であるNCAA(全米大学体育協会)をモデルにした日本版組織の創設を本格的に検討している。年間1千億円もの収入がある米国を参考に、日本も収益力を強化しようとの狙いだ。収益の一部が加盟校に還元されるなどメリットもありそうだが、金もうけの面が強調されている点が気になる。国内の現状は、学生の本分である学業が二の次にされている大学も多い。体育会の学生による不祥事も後を絶たない。大学スポーツが教育の一環であることが軽視されないか、危惧する。

 NCAAには1千以上の大学が加盟し、テレビの放映権料などで巨大な利益を得ている。一方で選手の学業水準や練習期間など厳しくルールを定め、規律を保っている。

 その日本版構想はスポーツ庁が4月に打ち出した。ビジネス化や地域貢献などを検討項目として挙げている。国が動きを加速させる背景には、2020年東京五輪・パラリンピックがある。五輪を契機にスポーツを日本の基幹産業の一つに育てようと、スポーツ庁と経済産業省が合同で環境整備を目指している。大学が持つスポーツ資源の活用は、その重要項目の一つだ。

 一言で言えば、スポーツを「もうかる」分野に変えようということだ。ここで立ち止まって考えたい。近年、国内の大学スポーツの人気低下は著しく、各競技で観客数は低迷している。要因として、体育会の学生と一般学生との乖離(かいり)が進んだことがある。選手が授業にも出ずクラブ活動に専念し、チームも大学側もそれを容認してきたからだ。

 米国の強豪アメリカンフットボール部にコーチ留学経験がありNCAAの事情にも詳しい吉田良治・追手門学院大客員教授(54)は「米国の大学は文武両道に対して非常に厳格。だからこそ一般学生や教職員の支持が集まり、ホームスタジアムが満員になる。その魅力があるからテレビ放映も加わる。日本ではもうけ話が先行しているが、教育をおろそかにしては絶対に成り立たない」と指摘する。

 独自のスタイルで米国流を目指すチームがある。京都大アメフット部は、持ち味の「文武両道」を前面に出したチームPRを展開中だ。地域貢献の狙いで子供向け科学教室を実施したり、部員教育のため各分野の専門家を招いた勉強会を定期開催している。特に学内向けPRに力を注ぎ、今春の学内での有料試合は満員になった。西村大介監督(39)は「学内や地域に応援してもらえることが何より第一」と話す。

 20世紀初頭に誕生したNCAAは元来、死者が多発するまで激化したアメフット対抗戦のルールを確立するための存在だった。金もうけが起源ではない。大学スポーツの歴史も考え方も異なるのに、その手法を表面的にまねるだけでは本質を見失ってしまう。

[京都新聞 2016年7月6日掲載]

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