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母親の育児不安 「できない」言える空気を

湖南総局 小坂綾子
KMP主催の家庭支援教育講座で手遊びする母親たち。笑顔の裏には、さまざまな不安を抱えている(草津市)
KMP主催の家庭支援教育講座で手遊びする母親たち。笑顔の裏には、さまざまな不安を抱えている(草津市)

 文字のみが延々と流れるスライド。会場からすすり泣く声が聞こえる。5分間の上映後、周りを見ると、先ほどまで楽しく手遊びしていた多くの母親が涙をぬぐっていた。

 6月に草津市の団体が子育てサークルの場で開いた家庭教育支援講座。講師を務めたのは、大阪府子ども虐待防止アドバイザー辻由起子さん(42)で、スライドでは、大黒柱の妻を支えて育児を担う大道芸人の心の内を紹介した。「私の子育ては期待されていた。それが私のプレッシャーとなり、ますますストレスに」「虐待をしてしまう人の気持ちは全くわからないではない」。孤独な育児と、楽しさに転換するまでの奮闘がつづられていた。

 会場の涙にはどんな思いがあったのか。「社会からの『お母さん』へのプレッシャーすごくわかる」「子育てはちゃんとしなくちゃと思うほど孤独になる」「毎日娘に怒ってばかりの自分が嫌」「自分一人が悩んでいると思ってた」。感想から見えたのは、サークルに参加しながら気軽に本音を話せない母親たちの実態だった。

 「弱音を吐けないママに、30点で胸張ろうと伝えたい」。講座を開いた「くさつ未来プロジェクト(KMP)」代表の堀江尚子さんは語る。母親が等身大でいられる社会を目指して活動する。

 堀江さんの第一印象は「パワフル」「元気」の評判通り。だが、取材のなかで印象は変化した。「優等生で育ち、育児も優等生じゃなきゃと思ってた。なのに子どもはどんなに努力しても泣いてばかり」。助けを求めることもできず、つぶれそうになるのを、鎧(よろい)をいっぱいつけて頑張ることで自分を保ったと打ち明けた。

 「人間は、1人で子育てするようにできていない。群れで育て、まねて学ぶ生き物。初めから母にはみんななれない。できなくて当たり前、1人で悩まないで」。多くの母親を支えてきた辻さんが講座で贈ったのは、23年前の自身の子育て中にほしかったという言葉の数々。柔らかく温かく、母たちの鎧をはぎとっていった。

 地域や家族の関係が希薄になり、自然と子育てをまねできる時代ではなくなった。だが、母への期待値が下がったように思えない。「お母さんならできる。子どものために頑張れ」と言われれば、できなくても「できなきゃ」と思う。「母親失格」の烙印(らくいん)を押されぬよう本音を隠し、または人間関係を断って守りに入る。孤立し、できないいら立ちがわが子へ向かうことは、想像に難くない。母たちは別の言葉を求めているのではないか。「できなくても大丈夫。一緒に考えよう」と言われたならどうか。

 子育て支援策をめぐる議論が交わされているが、社会は、笑顔に隠された涙の背景を見ようとしているだろうか。母親の子育てに期待をかけて傍観し、「できない」と言えない空気を作っていないか。子どもの育ちにとって大切な視点が抜け落ちていないか、問い直してみたい。

[京都新聞 2016年7月27日掲載]

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