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近江牛の生き残り策 ブランド強化へ3提言

滋賀北部総局 森敏之
滋賀県竜王町が開いた近江牛のすき焼きの試食会。行列ができる盛況ぶりで人気の高さがうかがえた(3月29日、竜王町薬師・三井アウトレットパーク滋賀竜王)
滋賀県竜王町が開いた近江牛のすき焼きの試食会。行列ができる盛況ぶりで人気の高さがうかがえた(3月29日、竜王町薬師・三井アウトレットパーク滋賀竜王)

 国内の子牛価格がこの5年間で2倍近く高騰している。繁殖農家の高齢化で子牛の需給バランスが崩れていることが原因だ。滋賀県内でも近江牛の肥育農家が繁殖を手がけたり、精肉店が値上げしたりするなど対応に追われている。いかに消費者離れを防ぎ、近江牛のブランド力を高めて産地間競争を勝ち抜くか。取材現場からの提言として三つのことを呼び掛けたい。

 第一に近江牛の定義を見直してはどうか。県は2005年、「豊かな自然環境と水に恵まれた滋賀県内で最も長く飼育された黒毛和種」と定めた。近江牛も他の銘柄牛も九州などで生まれた子牛を育てて出荷しており、この定義では質の違いが分かりづらい。

 他の日本三大和牛では三重県の松阪牛が生産区域を限定し、対象を未経産牛に特化。神戸ビーフは兵庫県内の血統を維持する但馬牛のうち未経産牛と去勢牛が対象で霜降りの割合や枝肉重量まで規定している。近江牛は脂が口の中で溶けるのが特徴とされるが、「脂が硬く高品質のイメージを損ないかねない肉も流通している」(精肉業者)との指摘もある。知名度の高さに油断せず、客観的で明確な特色を打ち出したい。

 第二に、情報発信を強化すべきだ。牛肉を食べることが禁止された江戸時代に彦根藩は唯一、生牛馬の食肉処理が認められ、将軍家に牛肉のみそ漬けを献上していた。明治初期には現在の滋賀県竜王町出身の家畜商竹中久次が東京で牛鍋店「米久」を開き、近江牛の名声を全国に広めた。国内初のブランド牛も近江牛だ。こうした歴史の重みは他府県にない強みだが、県民にもあまり知られていない。

 但馬牛博物館(兵庫県)や牛の博物館(岩手県)のような施設を新たに建てなくても、たとえば近江牛の情報を網羅した資料コーナーを流通拠点である滋賀食肉センター(近江八幡市)に開けないか。東京都中央卸売市場食肉市場(港区)では実物大の牛や枝肉モデルを展示し、食肉の歴史や流通の仕組みも学べる「お肉の情報館」が人気と聞く。歴史を身近にと構えるつもりはないが、楽しみや近江牛への興味を開く「窓」は近くにあった方がいい。

 第三に、年1回は学校給食で提供できないか。近江八幡市の幼稚園と小中学校で1月、全国学校給食週間に合わせて市内産の野菜や湖魚を使った特別献立があった。しかし、値段が高いとの理由で牛肉は近江牛ではなかった。

 県が力を入れる首都圏でのPRや輸出拡大も大切だが、地元の子どもが味を知らないのはもったいない。「おいしい」という純粋な喜びこそ郷土を代表する近江牛に愛着をもつ第一歩だ。県は生産者と未来の消費者を実際に結んでほしい。畜産の担い手だけでなく、「近江牛を食べる人」を県内で育てる視点も忘れてはいけないと思うのだ。

[京都新聞 2017年4月5日掲載]

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