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暴力団組長の虚偽診断疑惑 収監見送り、経緯検証を

報道部 岸本鉄平 
虚偽診断書作成容疑で家宅捜索され、大勢の報道陣が詰め掛けた康生会・武田病院前(2月15日、京都市下京区)
虚偽診断書作成容疑で家宅捜索され、大勢の報道陣が詰め掛けた康生会・武田病院前(2月15日、京都市下京区)

 医師の性善説に依拠した刑事司法システムの“落とし穴”か。

 暴力団組長(60)の収監を免れさせる目的で大阪高検に虚偽回答したとして、康生会・武田病院(京都市下京区)の医師(62)が虚偽診断書等作成罪などで起訴されて約2カ月が過ぎた。仮病で収監を逃れたのだとすれば、司法制度の根幹が揺らぐ異常事態だ。事件の経緯を振り返り、公正な刑執行手続きの在り方を考える契機にしたい。

 恐喝罪などに問われた組長は2015年7月、懲役8年が確定した。だが、組長側は腎疾患や不整脈を理由に刑の執行停止を申し立て、大阪高検は刑務所への収監見送りを決めた。判断材料にしたのは、通院先の京都府立医科大付属病院(上京区)と康生会・武田病院が「拘禁に耐えられない」「症状が重篤化する」とした回答書だった。

 刑事訴訟法は、刑務所に収監することで健康を害する恐れがある場合などを想定し、検察官の指揮の下、刑の執行を停止できると定めている。

 矯正統計によると、刑の執行停止はここ数年、20〜30人で推移。04年には、受託収賄罪で実刑となった中尾栄一元建設相の刑が執行停止となった。昨年は、刑執行が見送られていた食肉販売会社「ハンナン」元会長が病状回復を理由に収監された。

 ただ、検察官による審査の方法など具体的なプロセスは不透明だ。法務省刑事局は「把握していない」とし、大阪高検も「個別事案の具体的事情を考慮して検察官が判断する」と詳細を明かさない。

 実情の一端を検察OBが証言する。「現役時代、収監予定者が(心臓の病気で)面会謝絶の状態と診断されたことがあった。本人は外出先でピンピンしており、『病状が悪化したら外に戻せばいい』との判断で、収監することになった」

 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は刑の執行が公正であるべきなのは当然とした上で、「悪意の排除だけを目的に手続きをがんじがらめにすると、正常な制度運用が難しくなる」と指摘。「刑事司法制度というより、あくまで医師のモラルの話」と付け加えた。

 死因特定やDNA型鑑定、精神鑑定…。刑事司法手続きを進める上で、医学的見地が必要な場面は多岐にわたる。医師への信頼で制度が運用されていることを前提にしても、同様の事態を防ぐためには、セカンドオピニオンの徹底など、チェック機能の強化が不可欠だ。

 組長の収監を巡っては、虚偽回答した疑いがあるとして、京都府警は府立医科大付属病院も家宅捜索したが、捜査は難航している。捜査当局には、事件の真相解明だけでなく、収監見送りを判断した経緯についても、丁寧な検証を求めたい。

[京都新聞 2017年6月14日掲載]

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