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科学者と市民つなぐ 人材が活躍できる環境を

報道部 山田修裕
サイエンスコミュニケーターの役割について話し合う大学教員やジャーナリスト、学生たち(5月下旬、京都市上京区・同志社大)
サイエンスコミュニケーターの役割について話し合う大学教員やジャーナリスト、学生たち(5月下旬、京都市上京区・同志社大)

 科学技術の内容を専門外の市民にも分かりやすく伝える「科学コミュニケーション」の取り組みが、京都の研究者の間で始まっている。科学の進歩とともに研究内容が複雑化する中、社会全体で科学の在り方を考え進展させる「土壌」をつくるためで、人材養成のための教育プログラムや、研究者の活動を支援する部署を設ける大学も出てきている。科学者と市民との懸け橋となる彼らが活躍し続けられるような、キャリアパスなど仕組みづくりが必要だ。

 「『伝えたと思っても実は相手には伝わっていない』ということに衝撃を受けることが、まず大事」。ジャーナリストの池上彰さん(66)が5月下旬、京都市上京区の同志社大であった講演会で、会場の理系の学生らに語り掛けた。テレビニュースで科学や政治など複雑な事象を分かりやすく発信してきた池上さんの言葉は、記者にとっても重く聞こえた。

 記者はiPS細胞(人工多能性幹細胞)をはじめとする最新医療や科学の在り方を問う長期連載「いのちとの伴走」の取材班に加わった。普段は学校教育の取材が中心で、科学研究を取材することはない。専門用語や研究をめぐる議論の流れを正確に理解する難しさを感じる一方、適切な言葉に言い換えて書く重要性を感じていた。

 講演会は同大の生命医科学部が主催した。同大では昨年度、高度な科学技術を市民に分かりやすく伝える「サイエンスコミュニケーター」(SC)を養成する副専攻課程を立ち上げ、学生が科学や社会学、メディアについて学んでいる。創設の中心である野口範子教授(58)は「科学の研究分野が多岐にわたる今、専門外の人の理解を得るには、両者の間をつなぐ人材が現実的に必要だ」と力を込める。

 21世紀に入って重要性が指摘され始めた科学コミュニケーションは、2011年の東日本大震災や東京電力福島第1原発事故を機に、明確に意識されるようになった。「専門家が専門用語を多用して概要を説明しても国民に十分伝わっていなかったとの反省があった」と内閣府。科学技術振興も、国の予算が多くつぎ込まれる以上、社会の理解や協力が不可欠だ。

 科学コミュニケーションをめぐっては専門組織を整備する大学もある。京都大では12年に学術研究支援室を設置。一般の来場者を前に研究者が成果を発表する催しを行い、市民との対話内容を改めて研究者にフィードバックし、その後の研究活動に生かせるようにしている。学生有志による取り組みもあり、京大大学院生らでつくるグループ「京都サイエンスシーケンス」は、高校への出前講座を実施。活動の幅は徐々に広がっている。

 一方、SCなど科学者と一般市民をつなぐ人材が継続して活動できる場は多くない。「資格」のようなものではないため、キャリアパスも十分に確立されていない。そうした基盤が整っていけば、科学は市民にとってもっと身近になるはずだ。

[京都新聞 2017年7月12日掲載]

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