千年の歴史を持つ京都には、たくさんの風雅で奥深い文化があります。和菓子もそのひとつです。食べておいしく、見て美しく、その背後には豊かな歴史や人々の暮らしが息づいています。さまざまな菓子舗を切り口に、京都の歴史や文化、街の表情を探っていきます。
今回のお菓子

<お店>川端道喜 京都市左京区下鴨通北山角 TEL:075(781)8117 <菓子>粽(ちまき)
川端道喜の粽。きりっと巻き上げた姿に一種の風格すら漂う

 5月5日は端午の節句。この節句につきものの菓子・粽(ちまき)は、古代中国で、愛国の詩人屈原が、亡国を悲しんで泪水に身を投げた。それを悼んだ人びとが、毎年その命日に米で供物を作って献じたのが最初といわれる。菓子は最初、そのまま投げ入れたが、むき出しでは龍が食べてしまったので茅(チガヤ)で巻かれ、そこから「ちまき」の名がおこったという。日本にも早い時代に伝わり、端午の節句にはこの菓子が食べられた。

川端道喜宛の千利休の書状(複製)。同家に伝わる文書類(道喜文書)は京都市の指定文化財
 この粽をおそらく500年以上の長きにわたって作り続けているのが、京都でももっとも由緒ある菓匠のひとつ、「御粽司・川端道喜」である。「御」の字は御所に由来する。室町時代、もしくはそれ以前から、御所出入りの菓匠であっただけでなく、朝廷が衰微した時代に「御朝物」と呼ばれる朝食がわりの餅を献上するようになり、その慣例は東京遷都の前日まで、350年にわたり休みなく続いた。同家に伝わる100点以上の古文書類は、御所からの菓子の注文や製作の事情を連綿と記すのみならず、室町から江戸にわたる京都の上層町人の暮らしや文化をも彩り豊かに伝える。まさに、京都の歴史そのものをいまに伝える家のひとつである。

《流れる水の味わい》

「水仙粽」。水仙とは葛菓子に付けられる呼称。透明な水の流れのように美しい
 透明な「水仙粽」と、餡を練り込んだ「羊羹粽」の2種を売る。この店の歴史的価値は世に名高いが、その「粽」を実際に食べたことのある人は、京都にも案外少ないのではないだろうか。もともと、粽自体がどこか「神饌」に近く、祇園祭の粽のように、魔よけに飾っておく形のものも多い。だが、この店で作られる粽はほんとうに「菓子として」すばらしくおいしいものである。

「羊羹粽」。水仙粽よりはやわらかめ。上品な餡を練り込む
 透明な「水仙粽」。岩間を流れる清流をそのまま固めたかのような美しさ。幾重にも巻かれた青い笹を解くと、その隙間からつるりと透き通った輝くような肌が現れる。食べるときにはそのまま囓るのではなく、黒文字で切って口に運ぶとよい。笹の葉から離しても、菓子自体がそれだけで鮮烈な香りを放つのがわかる。この香りをしっかりと移すため、店では粽を笹で巻き上げた後、長時間かけて熱湯でゆでるのである。

 口に運ぶと、とろけるようなやわらかさ。そのままするするっとのどまで滑り落ちる。後に上品な甘さが残る。人為的に作られたものの何もない、自然そのものの味がする。餡を練り込んだ「羊羹粽」のほうは、「水仙粽」よりすこしやわらかく、口の中からじわりと甘味が広がり、ゆっくりと体に浸透していく。

《500年来の手作り》

 室町末期、応仁の乱後の御所衰微の折、吉野に住まう「葛族」が朝廷に葛を献上した。葛は滋養強壮によく、古来非常食として用いられていたのである。これを「どうしたらおいしく食べられるか」との下問を受けて、葛菓子を製作することになったのが出入りの菓匠・道喜(初代)である。当時はまだ砂糖がなかったため、道喜は甘葛を炊いてその汁を菓子に混ぜ込み、さらに笹の葉で包んで「御粽」とした。同じ葉で包む菓子でも団子などはチガヤの葉で巻くが、葛はとろりとやわらかいため、幅の広い笹の葉の利用を思いついたという。この笹が風味づけと保存にも効果を発揮し、以後「道喜粽」と称され御所で愛好されるようになった。

 それから500年。いまも製法は当時と変わらない。吉野葛と砂糖を天然水で炊いて練り、洗った笹の葉をずらりと並べ、その上に練り上がった生地を載せていく。形を整え、藺草できりきりと巻き上げる。これを束ねて長時間ゆでる。笹の香りを粽に移し、余分な糖分を落とすためである。1本を巻くのに5〜6枚の笹を使い、100本巻くのに4時間はかかる。笹の葉はすべて手洗いである。歴代天皇が召し上がったものそのままの、透明な美しさを保つのである。

《環境の変化》

1本を巻くのに5、6枚の笹を使う。「ほどくのがもったいなくて、家の者は粽はあんまり食べません」との言葉に苦労のほどが窺える
 室町時代以来の手作業。「500年前と今とで変わった点は、薪がガスになったことだけ」というが、細かな点はいろいろと変わってきている。店が、ではなく環境の変化である。材料の確保が難しい。たとえば笹の葉、昔は「おかめ笹」といって3枚あれば粽1本巻けるような大きな葉もときにあったというが、いまは葉がすっかり細くなり、1本巻くのに5枚は確実に必要。環境悪化や乱獲で笹(竹)そのものが弱ってきているのである。

笹をむいた粽
 粽を巻く藺草も昔はイガラといって、藺草から芯(灯心)を抜いたものを使った。これだと、芯を抜いた後で藺草が2つに割れているため、ひっかかりがあって巻きやすかったが、現在はイガラを商う農家がなくなり(灯心を使う習慣が廃れたため)、無傷の(割れていない)藺草を使うことになる。これが、つるつると滑って巻きにくい。そうした点では、便利になったはずの現代のほうが、作業は難しくなってきているのかもしれない。「もっと環境が悪くなったら、たぶんうちはやっていけなくなると思います」。

 笹の葉を洗っているとごくたまに、すばらしく香りの良い葉に出会うことがあるという。とても口では説明できないそうだが、「あえてたとえるなら、蘭の花のような」香り。竹は60年に1度しか花を開かない。あの良い香りのする葉はもしかして、その年の「花になるはずだった葉」なのかも、と作り手たちは話す。2012年には創業500年を迎える、まさに「京都ならでは」の菓匠である。

 ※川端道喜の粽は、5月5日までに購入する場合は4月中旬までの予約が必要(6日以降は平常通り)。

これまでに紹介したお店
塩芳軒  ・とらや ・鶴屋吉信 ・いなりや ・俵屋吉富 ・粟餅所・澤屋 ・末富 ・御洲濱司・植村義次 ・鶴屋弦月 ・芳治軒 ・鶴屋寿 ・先斗町駿河屋 ・一和 ・菱屋 ・おせきもち ・水田玉雲堂 ・老松 ・桂飴本家 養老亭 ・能登掾 稲房安兼