■路面電車 朝の始まり告げ

 吐く息も白い午前六時半。前照灯が薄闇を切り開く。電車が道路の真ん中を来る。車はまだ少ない。

 東の空が赤い。嵐電山ノ内駅(右京区)で「あのころ」と同じ朝が始まった。

 嵐電は開業から約百年がたつ。京都で唯一、路面の線路を残す。

 かつて京都の市街地は路面電車が縦横に走っていた。代表格の市電は最盛期、路線の総延長が七十四キロもあった。しかし。一九七〇年代。急増する車に次々と道を明け渡していく。

 「沿線には嵐山や有名なお寺がたくさんある。連携して活路を見いだした」。嵐電を運行する京福電気鉄道の鈴木理夫さん(46)は振り返る。嵐電の最高速度は時速四十キロ。速さは車に及ばない。でも観光客にも親しまれ、今も京都の道を行く。

 午前七時半。車が徐々に増えてきた。「こうやって電車を待っているのは昔も同じ。ただ車はずっと少なく、牛が荷車を引いてたなぁ」。山ノ内自治会連合会長の近藤林吉(りんきち)さん(76)は懐かしむ。

 朝の光が増してきた。タイムスリップの魔法が解けていく。


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