■冬は銭湯で芯からぬくもった

 「ほら、体ふくで」。お父さんが柳行李(やなぎごうり)からタオルを取り出す。はしゃいでいた子がすぐつかまった。ゴシゴシ、ゴシゴシ。たくましい腕が水気を拭(ぬぐ)っていく。ほのかなシャボンの香り。着替えたらコーヒー牛乳が待っている。

 京都市上京区の長者湯は木製のロッカーや金閣寺のタイル絵が昭和の雰囲気を漂わす。

 「ひとり暮らしでは今じぶんの風呂は寒いから」。近くに暮らす北村幸雄さん(71)は冬限定の常連だ。自宅にお風呂がなかった時は年中通っていた。「あのころの銭湯は湯船に入れないぐらい人が多かった…」

 昭和三十年代の後半、市内の銭湯は五百軒を超えていた。家風呂の普及とともに客足は遠のく。今は二百軒に満たない。

 長者湯も廃業を考えたことがある。古いものを守るのには手間も費用もかかる。しかし主人の間嶋正明さん(51)は昔ながらの造りを大切に思う。「湯だけやなく、木のぬくもりでほっこりしてほしいやん」

 下駄箱のいつもの番号からスリッパを取り出し、親子が帰る。「おおきにっ」。底冷えの夜。芯からぬくもった体に、むしろ心地いい。


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