Kyoto Shimbun


環境を考える

エコツーリズム

 地域の豊かな自然や、地域に根差した文化に触れ、そこに暮らす人々の話に耳を傾ける−そんな旅が注目を集めている。「エコツーリズム」。大量のごみ散乱、大量旅客輸送によって大気汚染をもたらす、これまでの消費型観光を反省し、自然との「共生」を考える地球環境時代にふさわしい新タイプの観光旅行。地域起こしにも結び付き、利益は地域の環境を守るために役立てる。先月、熊本県水俣市の海、山で体験するエコツアーに参加した。

リゾート開発から観光も共生型に

 青く輝く水俣湾が、目の前に広がっている。戦後の高度経済成長の陰で、化学工場が排出した有機水銀によるチッソ水俣病が地域を侵し、多くの住民が犠牲となった。しかし、いま「公害の原点」といわれる悲劇の痕跡は見えず、岩場ではヤドカリやカニが動き回っている。

 十六人の参加者が、漁船に乗り込んだ。操船するのは女性漁師の杉本栄子さん(六一)だ。「ここではちりめん(カタクチイワシの稚魚)が獲れる。いい漁場ですよ」

 杉本さんは、沖で船を停めると、参加者たちに語りかけた。水俣病に苦しめられ、十年間寝た切りで、差別も受けた。「今の、このいい海を見てもらい、私たちの気持ちを知ってほしいのです」

 このエコツアーは、熊本県の主催。海に続いて、農水省の「日本の棚田百選」に認定された山あいの久木野地区を訪ね、棚田に菜種を植えた。

 この地区では、季節の折々にそばや大豆を植え、それを材料に豆腐を作り、そばを打つ。自然に近い、環境にやさしい暮らしが息づいている。参加者たちは、地元の人たちから話を聞きながら、豆腐やそば作りを教わった。

 ツアーを企画した水俣グリーンツーリズム研究会代表の沢畑亨さん(三七)は、こう話す。「地元の人にとっても、自分たちの地域や文化を、再認識するという利点があるのです」

 これまでの観光といえば、大規模リゾート開発や大量の観光客誘致などに力が注がれ、そうしたことの結果が自然や地域文化の破壊を招いたりもした。

 「観光のあり方への懸念は、旅行業者の中からも出ている。一方の旅行者も多様な価値観を持ち、従来とは違った観光を求め始めている」。民間のエコツーリズム推進協議会(東京都)の高梨洋一郎事務局長は、エコツアーが注目される背景を説明する。

 自然が豊かに残り、世界遺産にも指定された屋久島や西表島では、地元主導でエコツアーを受け入れる組織が出来た。行政も研究を始めている。「ただ、現地のガイド不足や旅行者への情報提供をどうするかなど課題は多い」と高梨事務局長は現状を話す。

 観光都市・京都でも、京都市や市民らによる「京のアジェンダ21フォーラム」が、エコツーリズムの検討班を作り、六月から研究を始めた。「京都には町家など、従来の観光では注目されなかった中に、エコツアーの資源がある。都市と自然が調和した京都ならではの都市型エコツーリズムを提唱し、まちづくりに生かしたい」(市地球環境政策課)という。

 市民グループ「環境市民」は、九七年春から「京都エコ修学旅行」を始めた。鞍馬山での自然体験や町のエコマップ作りなどで、これまで十二校が参加した。これからは一般の旅行者のためのコースなどを検討していくという。

 環境市民事務局スタッフの能村聡さんは「観光を環境の視点で見つめ直し、経済一辺倒でないエコツアーを展開しなければ。京都には千二百年も息づく生活と自然、文化がある。そこで暮らし、自然や文化にかかわる市民が、エコロジーの意識を持ってエコツアーに参加し、訪れた旅の人とふれあい交流してもらう。そうした積み重ねで、京都の町が環境と文化の融合した都市になっていけば」と、エコツア ーへの市民参加にも期待を寄せる。(1999年10月14日掲載)

 ▽エコツーリズム 自然や動植物の生態、地域独自の文化を観察、体験する旅行形態。自然を守りながら、地域の観光、産業振興にも結び付ける。日本では1990年に環境庁が「熱帯地域生態系保全に関する取り組み」のなかで提唱した。現在、全国各地で自治体や旅行業者、環境団体などが、ツアーのあり方を研究し、一部では取り組みを始めている。


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