Kyoto Shimbun


環境を考える
芦生演習林で考える

 自然への関心が高まるなかで、自然に親しもうと大勢の人たちが森林や湿地などに入り込むほどに、豊かな自然がダメージを受けている。山道は踏み固められて広がり、植物の生息域が狭められるなど、皮肉な結果を生んでいる。自然とのふれあいはどうあるべきなのか。京都・美山の芦生演習林を歩きながら考えた。

ジレンマを超えてふれあう

 四月下旬、環境共育事務所カラーズ(京都市左京区)が主催した、芦生をめぐるハイキングに参加した。尾根沿いの山道から道なき道を歩いた。出発から二時間、目前にアシウスギが現れた。幹回り十メートル、高さ三十メートルを超える巨樹は、荘厳だ。「樹齢推定二千年以上、多雪地帯に特有の伏条台杉です」。地元ガイドの浅野目誠和さん(五五)が説明してくれた。

 ブナの巨木や山リンゴの実。イワウチワがピンクの可れんな花を咲かす。浅野目さんが、草花や樹木の名前や特徴などを教えてくれる。ミズメサクラを少し傷つけ樹脂のにおいをかぎ、クマザサをちぎってササ茶の作り方を披露した。

 芦生演習林は京都、滋賀、福井の府県境に位置する約四千二百ヘクタールの京都大農学部付属演習林。植物群が多様で、クマやカモシカなどの動物もおり、豊かな自然が残っている。

 そうした芦生演習林でも、自然とのふれあいを求めて入山する市民ハイカーたちが急増している。「十年前の十倍近い」(京都大演習林)という。その結果、由良川源流域で山道の幅が増し、踏み固められ、植物の生息域を狭めている。

 「だからこそ、いま保護のあり方が問われる」と、今回のハイキングを主催した西村仁志さん(三七)は問題提起する。しかし、自然を守るために全面立ち入り禁止にすべき、とは西村さんは考えてはいない。「自然に触れなければ、その豊かさは分からないし、環境保護の気持ちも育たない」からだ。

 では、どうすれば自然保護と両立するのか。西村さんは、回答の一つとして、私が参加したハイキングを初めて計画した。

 美山町の佐々里峠から入山し小野村割岳までの十キロ、往復約四時間のコース。自然に負荷をかけないように、道を選び、参加者を十八人と制限している。参加費は一人四千円。やや高額と感じる人もいるかもしれないが、それによって参加人数が絞り込まれる。参加費は、ガイド費と保険料のほか、環境を守るための基金に回るという。

 「入山人数を絞り、地域を知り尽した地元ガイドを養成する必要がある。公的機関と地元が一体となり、上手に自然とつきあうべき」と西村さんは考える。

 海外では、そうした自然保護の思想が実践されている。例えばマレーシアのキナバル山は、地元ガイド同伴でないと入山できず、自ずと人数が制限されるという具合だ。

 一方、国内の現状はどうか。白神山地を例に見よう。世界有数のブナ原生林として世界遺産登録されたのが九三年。その後、自然保護団体による入山規制を含め、白神山地の保護を考えるシンポジウムを開くまでに五年かかった。人と自然のかかわりを重視する青森県側と、入山規制に賛成する秋田県側で保護団体が対立した。

 「良好な自然環境は国民の財産。行政だけでなく、市民が積極的にかかわり、適正に管理すべきだが…」と板倉豊京都精華大助教授(環境社会学)は惜しむ。

 日本では、国、自治体、地域など多数の地権者、管理者がからみ、保護のあり方をめぐる議論を複雑にしている。

 芦生でも、ダム建設計画をめぐり、観光拠点にしたい地元・美山町と、貴重な植生を守りたい演習林に対立があった。自然状態の認識の相違、さらに地代の値上げ問題もあり、「両者で協議するのは難しい状況だろう」(同町 幹部)という。

 林道に近く入山しやすい芦生には、一説では五万人が訪れるという。人と自然のかかわり合いは大切だが、適度を超えれば自然を損なう。ジレンマを乗り越え、どう人は自然とつきあっていくのか。ルール作りが今、問われている。(2000年5月12日掲載)


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