Kyoto Shimbun


環境を考える
深刻化する松枯れ被害

 秋の味覚の王者といえばマツタケ。とりわけ、京都府の丹波産の風味は最上とされてきた。しかし、国産マツタケの生産量は大きく落ち込み、店頭は中国産に圧倒されている。マツタケの大きな脅威になっているのが、松枯れだ。松並木の美しさで知られる「日本三景」でも松枯れは深刻な問題になっている。地球温暖化が進む21世紀、松枯れ被害はますます深刻化する可能性がある、と研究者たちは警告している。

温暖化で加速の可能性

 日本古来の味覚と考えられがちなマツタケだが、由来は意外に新しい。マツタケ研究所(岩手県岩泉町)の吉村文彦所長によると、花粉の分析から、マツタケが生えるアカマツ林が日本で広がったのは古墳時代の六世紀ごろから。奈良時代にはマツタケは食用として珍重された、という。

 平安時代になると、都の人口の増大で燃料や材木として平安京周辺の原生林が破壊され、代わってアカマツ林が都の周辺に広がった。貴族は盛んに「都マツタケ」の狩りを楽しんだそうだ。

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枯れた松を切り、マツタケ山の再生事業が進む山林(京都府瑞穂町)
 農水省などの統計によると、マツタケの生産量は日米が開戦した1941(昭和16)年に全国で約1万2000トンのピークを記録したが、70年ごろには1000トンを割り、現在は200トン前後に落ち込んだ。逆に、輸入は4000トンに達している。

 京都府内の生産量も、ピーク時の1200トンから最近は30分の1の40トンに落ち込み、「丹波マツタケ」はすっかり希少品になってしまった。

 森林総合研究所関西支所(京都市伏見区)の藤田和幸連絡調整室長は、「燃料革命で人が山に入らなくなり、アカマツ林が荒れてしまった。いわゆる『マツクイムシ』による松枯れの急増が追い打ちを掛けている」という。

 松枯れは戦後、西日本を中心に発生し始め、次第に北上した。現在では太平洋側の宮城県と岩手県の県境と、日本海側の秋田県能代市を結ぶ線まで達している。天橋立(京都府)、安芸の宮島(広島県)、松島(宮城県)の日本三景は、いずれも松林と海岸線が織りなす美しさが特徴だけに、松枯れは深刻な問題だ。

 松枯れは、マダラカミキリが運ぶ寄生虫・マツノザイセンチュウが松の木の中で増殖し起きる。夏前に羽化したカミキリが「運び屋」となり、7月ごろ寄生虫が松の木に侵入すると、早ければ2週間程度で松は枯死してしまう。

 カミキリを殺す薬剤の散布や、寄生虫の増殖を抑える予防薬の樹幹注入が対策として行われているが、藤田室長は「農薬散布は環境への影響も指摘され、樹幹注入はコストと手間がかかる。一定の効果はあるが根絶の決め手はない」と話す。

 さらに、地球温暖化が松枯れ被害を広げる恐れが指摘されている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、100年間に地球の平均気温は1.4〜5.9度上昇すると予想している。気温が中間値の3度上昇した場合、藤田室長の研究では、北日本でもカミキリの活動が活発化し、松枯れが北海道のオホーツク海沿岸でも起きる温度条件が整うことが分かった。

 農害虫研究の権威で、農水省農業環境技術研究所(茨城県つくば市)の桐谷圭治・名誉研究員は「昆虫の繁殖は、冬の最低気温に耐えられるかとエサとなる植物の変化に大きく左右される。急速な温暖化は、松だけでなく農作物や森林にも意外な昆虫被害を生む恐れがある」と指摘している。(2001年10月12日掲載)


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