Kyoto Shimbun


環境を考える
化学物質の恐怖今も

 米国の海洋生物学者レイチェル・カーソンが、農薬DDTなどによる環境汚染を鋭く告発する名著「沈黙の春」を世に出してから、今年でちょうど40年を迎えた。その後、数々の農薬や化学物質が規制されたが、環境ホルモン(内分泌かく乱物質)問題にみられるように、化学物質汚染は解決にはほど遠い。「人間が考え出した恐ろしい武器は…人間の住む地球に向けられている」という彼女の警告は、今も生き続けている。

レイチェル・カーソン
「沈黙の春」発表から40年

 カーソンの生きた20世紀前半は、科学技術が急速に発達した。化学工業の副産物として発生する安価な塩素から、第一次大戦中には毒ガスが作られ、その技術を応用して多彩な有機塩素系農薬が合成された。DDTは1939年に殺虫作用が確認され、第二次大戦後も大量に製造された。

写真
米誌タイム(99年3月29日号)はカーソンを20世紀を代表する100人の1人と紹介した
 カーソンは、食物連鎖や生物濃縮の仕組みを分かりやすく説明しながら、農薬によって多くの野生生物が死ぬだけでなく、食べ物を通じて農薬が人間の体内に入り、がんが多発すると警告した。

 ▽全米から世界へ

 ニューヨーク・タイムズ紙の環境記者だった、フィリップ・シャベコフ氏は、著書のなかで「DDTなどの、人や自然への害は早くから指摘されていたが、カーソンの明快で詩的な文章が人々の心をとらえた。『沈黙の春』は、アメリカばかりか世界中の人々の生き方を変えた」と指摘する。

 「沈黙の春」が火をつけた人々の環境意識は、地球環境保全を訴える大規模な市民行動「アースデー」(70年)につながった。各国政府は、農薬メーカーなどの反対にもかかわらず、DDTなど危険な農薬の使用を相次いで禁止した。

 同じころ、日本でも水俣病などの公害が社会問題化し、環境に人々が目覚め始めた。当時、いち早く公害に警告を発した宮本憲一・滋賀大学長は「産業を優先する国策の裏側で、人々の健康がないがしろにされている実態が見過ごせなかった」と振り返る。

 ▽「奪われし未来」

 「沈黙の春」は、環境問題の古典として読み継がれているが、最近、その限界を批判的に乗り越えようという動きが目立っている。きっかけは、環境ホルモンの危険性を訴える「奪われし未来」(96年)の出版だった。

 環境ホルモン研究の日本での第一人者、井口泰泉・岡崎国立共同研究機構総合バイオサイエンスセンター教授は「カーソンは偉大な仕事をしたが、当時の研究レベルもあって、化学物質の発がん性に注目が集まり、生殖機能障害など他の悪影響に目が向けられなかった」と指摘する。

 環境ホルモンは、微量でも精子数の減少や知能低下などを引き起こすとされるが、世界的にも研究が始まったばかりだ。

 ▽自然界と和解を

 私たちは、10万種類ともいわれる「化学物質の海」の中にいる。化学物質に限らず、地球温暖化やオゾン層破壊、熱帯林や野生生物の絶滅など、環境問題の原因は人間に他ならない。

 「沈黙の春」の序文にこうある。

 人間はこの世界を、さまざまな生き物と分かち合っている。(われわれは)正気と常識を取り戻し、自然界と和解せねばならない。(2002年3月15日掲載)


◇INDEX◇