Kyoto Shimbun


環境を考える
根を張る「不耕起栽培」

 土を耕さずに、苗を植えたり種をまいて作物を育てる「不耕起栽培農法」。この耳慣れない農法が、稲作を中心に京都や滋賀でも広がりつつある。もともとは田起こしなどの農作業の省力化や、しろかきの際に出る、湖や河川の富栄養化を招く濁水の減少を狙って始まった。しかし、近年では雑草対策として冬にも田に水を張る「冬期湛たん水すい」によって、鳥や昆虫など多種多様な生物が集まることが報告され、かつて田んぼにあった生態系を取り戻す試みとしても注目されるようになった。(社会報道部江藤均)

冬に生態系回復
収穫面で課題も

 滋賀県蒲生町の田園地帯。その一画に、稲刈りは終わっているのに、水を張ったままの田がある。稲の切り株がわずかに顔をのぞかせる水面に、この時期、越冬するカモなど水鳥の羽毛が、枯れ葉にまじって浮かぶ。「今年から稲刈り後の田んぼに水を入れたら、カモが夜のねぐらとして使うようになった」と、5年前から不耕起栽培に取り組んでいる安井恵偉輔さん(57)は話す。カモは田んぼに生える雑草の芽をついばみ、ふんは天然の肥料になる。

 不耕起栽培は、農薬や化学肥料を使わない自然農法の一つとして10年ほど前から始まった。滋賀県では、湖東地域や朽木村などで約40戸が取り組んでいる。京都府でも宇治田原町などで実践する農家がある。ほ場整備や農耕機械の大型化が進んで、一般的な田んぼでは農閑期に水を抜いて土を乾かす。しかし、不耕起田は雑草対策として冬に水を張る。

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冬期湛水を実践している不耕起農法の田んぼ。この時期、カモが羽根を休める(滋賀県蒲生町)
 滋賀県立大は2001年から3年間、永源寺町の水田で不耕起栽培の共同研究を始めた。農業面での実用性とともに、環境への影響を探ることにした。担当した近雅博助教授(動物行動学)によると、実験した不耕起田では、ユスリカの幼虫の生息数が通常の水田の約10倍だった。前年の切り株やわらが土の表面に残ることで、幼虫が発生しやすいのではと推測している。

 近助教授は「不耕起の田んぼの上空にだけツバメが群がることもあった。土を掘り起こさず、冬も水を入れることで、タニシやドジョウも越冬できる。多様な生き物が暮らしていける環境が、できているのかもしれない」と話す。

 ガンやカモなどの冬の渡り鳥が多い東北地方では、鳥の休憩地としての不耕起田の役割に注目が集まっている。滋賀県でも東近江振興局などでつくる「東近江環境保全ネットワーク」が、不耕起田の生き物調査を企画しており、多くの生き物が暮らす場として見直され始めた。

 近江八幡市の高校教諭、中村治一さん(46)は5年前から自分の田んぼで不耕起栽培を実践し、田んぼに住む生き物を調べている。年を経るにつれて生物の種類は増え多様化しているといい、「減農薬が環境保全型とすれば、不耕起は環境創出型の農法といえる」と位置づける。

 一方、不耕起栽培には、雑草が生えやすい、田によっては収穫量が安定しないという課題もある。京都府や京都市によると、実験的に取り組んだものの、除草作業が面倒で断念する農家も多いという。また、冬期湛水は水利権や水源の問題などもからみ、実施できない農家もある。

 滋賀県八日市市の農業中岸希久男さん(53)は、自分の田んぼだけでなく安土町や大津市の田んぼを借りて、不耕起栽培に取り組んでいる。「不耕起栽培は周囲の理解を得るのが大変」というが、一方で得られる喜びは大きいと話す。「ドジョウやホタルなどの生き物が暮らす田んぼは、人間にとっても大切な場所。少しでも不耕起栽培の面積を広げていきたい」(2004年2月13日掲載)


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