Kyoto Shimbun


環境を考える
クマ異常出没「森の復元を」

 ツキノワグマの人里への出現が全国的に相次ぐなか、異常出没の背景に、奥山と里山の環境の変化を指摘する声が研究者や自然保護団体で高まっている。京都では長期的な視点からクマのすめる森づくりに取り組もうとするグループも誕生した。森林に何が起こっているのか。クマ騒動を通して考えた。(社会報道部 目黒重幸)

森の植生に異変
エサ多い里山へ

 京都府森林保全課によると、昨年9月のクマの出没・捕獲情報は1カ月間で8件に過ぎなかったが、今年9月は46件と激増した。10月に入っても出没が相次いでおり、7日には美山町で人里に現れたクマ2頭が射殺されている。

 異常出没の直接の原因とみられるのが、クマのエサとなるブナの実などドングリ類の不作だ。冬眠を控えたこの時期、クマはドングリを求めて山を広く動き回る。「理由はわかっていないが、ドングリは年によって豊凶の波がある。凶作の年はエサを求めて里に下りてくるので、クマの出没件数も増える傾向にある」と、森林総合研究所関西支所(京都市伏見区)の大井徹・生物多様性研究グループ長は言う。

 府林業試験場は「現在調査中だが、今年のドングリは実りが悪いという印象だ」と話す。さらに度重なる台風の上陸が追い打ちをかけ、ドングリの実を青いまま落としてしまっている。

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人里近くに現れ、射殺されたクマ(10月7日、京都府美山町役場)
 そうした表面的な理由にも増して、森林の変化がクマを窮地に追いやっていることが根本にある−とする見方も少なくない。戦後、日本ではブナなどの広葉樹を切り、スギやヒノキの針葉樹に植え替える「拡大造林」政策が奥山に至るまで採り続けられてきた。

 府森林保全課は「針葉樹の人工林は食物環境としての価値が著しく低い。クマ保護のため広葉樹林を広げたいが、広大な面積の人工林にどう手をつけていいのか分からない」とお手上げの状態だ。

 林業不振もあり、奥山の人工林は荒れるにまかされている。大井グループ長は「針葉樹が間伐されず放置されているため、森に光が入らなくなった。エサとなるイチゴ類や柔らかい草も生えなくなり、クマがすみにくくなった」と話す。

 一方で、近年は里山も姿を変えてきた。まきを採るため定期的に伐採していた里山に人の手が入らなくなった。「そのためドングリをつける木が大きくなり、たくさんの実ができるようになった。過疎化で里のクリやカキを採る人も減り、里山はエサが増えた。いわば、奥山と里山が逆転した」と大井グループ長は指摘する。クマは奥山を追い出され、そしてすみ心地の良くなった里山に引っ越してきたという訳だ。

 「何より大切なことは、奥山の森を復元し、クマが里に出てこないようにすることだ」。自然保護団体「日本熊森協会」(事務局・西宮市)の森山まり子会長は力を込める。協会はクマのすめる森をよみがえらそうと10年前に発足し、兵庫県で植林を進めてきた。昨年3月には京都支部ができ、現在府内で植林地を探している。

 森山会長は言う。「豊かな森林は保水力が高く、滋養たっぷりの水を供給することで、人間の文明を支えてきた。その森の危機を、クマが命がけで教えてくれているように感じる」(2004年10月19日掲載)

 ≪京都府内のツキノワグマ≫ 京都府によると、府内のツキノワグマの生息数は200−500頭。2002年には府レッドデータブックで絶滅寸前種とされ、狩猟が全面禁止となった。府は今年5月、クマの「特定鳥獣保護管理計画」を策定し、長期的な保護に乗り出している。


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