メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

鞍馬の火祭 2

大人へ「チョッペンの儀」

 漆黒の鞍馬。鞍馬寺山門脇の建物に、煌々(こうこう)と明かりがともされている。火祭を決して絶やすまいと、4年前から毎年祭りの前に開かれている「伝承の会」会場である。

 今月9日午後8時前、火祭を伝統にのっとり厳然と仕切る鞍馬の住民組織「七仲間」の関係者や氏子総代、世話役らが会場に到着。ややあって、街のあちこちから、若者たちが集まってくる。約50人。中学生や高校生、それに大学生も交じっている。会場には、火祭で重要な役割を果たす大太鼓も持ち込まれ、22日の本番へムードが高まる。

林俊行さん、西垣光洋さん、☆庭捷平さん、山本雄大さん(左から)

 「今年、チョッペンの儀を行うのは、この4人の若者です」。世話役の園田久彦(53)が告げる。高校1年☆庭捷平(16)、同2年西垣光洋(17)と山本雄大(17)、そして大学3年生の林俊行(22)、今年「大人になる」儀式に臨む4人を、次々と紹介する。

 チョッペン−。言葉も不思議なら、そのスタイルも奇妙だ。鞍馬地区独特の、大人デビューを果たすための重要な儀式である。たいまつの派手さに隠れて、あまり知られていない。

 炎の嵐が収まり、午後9時を回ったころから二基の神輿(みこし)の渡御が始まる。若者たちに担がれた神輿は、女衆の引き綱でコントロールされ、そろそろと山門下の石段を降りる。この時、その左右の担ぎ棒の先端に注目だ。そこには締め込み姿の若者がぶら下がり、足を逆さ大の字にし、それを担ぎ手がさらに押し上げる! なんとも珍しいセレモニー。

八木透さん

 「チョッペンの語源は分からないが、本来の祭りとは別の、年齢階梯(かいてい)制の儀礼という若者の祭りとしての姿が見える」と語るのは通過儀礼に詳しい佛教大教授の八木透(51)。「火祭全体に、肉体的、精神的試練を克服し、親類の人、あるいは好きな女の子に、男がその勇姿を見せるという要素もあるようだ」と、男を示すパフォーマンス性が強い祭りであることを指摘する。

 鞍馬の若者にとっても、チョッペンは格別の意味がある。

 西垣は「人生で一回しかできないこと。友達も、たくさん応援に来てくれるみたいで、うれしい。興奮しますよ」と話す。山本も「どこにもない儀式で、誇りに思っている。ちょっと恥ずかしいが、立派にやりたい」。

 「まだ実感はないが、兄のを知っているので、普段通りの心構えで臨みたい」というのは☆庭。22歳までなんとなく延ばしてきたという林は「いやあ、緊張します。出ることは、まだ誰にも言ってないです」と照れる。4人とも、これから本番に向け、徐々に気持ちは高まっていきそうだ。

園田久彦さん

 チョッペンも担当する世話役の園田は、この祭りのために鞍馬にいるとまで言いきる。「鞍馬のことを考え、火祭を考え、いつまでも伝えないかんと思うようになったのは、やはりチョッペンがきっかけでしたね」と、火祭での、この儀式の重要さを語る。

 「内面的な成長というか、やり終えた後、その成就感は不思議なものでした。これから、自分がこの祭り支えなあかんという男気というか、強い意識が生まれましたねえ」と振り返り、後に続く若者たちに、火祭継承への意識が高まることを期待する。

 伝承の会で、後輩たちに、見事な太鼓のバチさばきを披露した造園業杉本勝(26)も「チョッペンはうれしいもんですよ。鞍馬のもんがみんな集まってやる火祭は素晴らしい、とこの経験で実感できるようになった」と。

 火祭は、厳格な伝統の行事を通じ、若者の心もとらえてやまない。(敬称略)

☆は「廣」の中が「黄」です。

[京都新聞 2006年10月16日掲載]