メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

鞍馬の火祭 3

女たちの役割

 お祭りでは一般的に珍しいことだが、鞍馬の火祭では昔から、男だけではなく、女も祭りにかかわる。

 石段を降りる神輿(みこし)を後ろから綱で引っ張り、急激に降りないようブレーキをかける。多くの若い女性の伝統的な役割だ。そして、前にも記したように、大きな太鼓や鉦(かね)をたたくことにも、女は参加できる。

 こんな鞍馬の火祭には、女性に関して特別な意味合いというものがあるのだろうか。

阿南透さん

 以前、京都で鞍馬の火祭と出会い、すっかり魅了されたという江戸川大学社会学部教授の阿南透(47)は「女性の神輿への関与は、確かに、あまり例を見ないことと思う」と話す。だが「それにあまり深い意味はなく、かつては(由岐神社からの)急坂を人力で降ろしていたはずで、女性も手伝わなければ、とても安全に降ろすことなどできなかったのだろう」という。

 鞍馬寺の山門近くで和菓子の製造販売店を切り盛りし、店の仕事と家事に祭りの準備が加わる10月は「もうむちゃくちゃです」という岸本泰江(54)。祭りでは「男と女が役割分担を自然に、暗黙の了解でうまくやってるんと違うかなあ」と話す。

岸本泰江さん

 鉦が得意の岸本は、祭り当日は「午後4時には店を閉めて、それから知り合い、親類のお客さんの接待。まあ大変です。けど、早めに食事してもらって午後7時ごろには、さっさと片づけを始め、8時には、鉦と太鼓をたたきに行って楽しむんですよ」。

 母親譲りで、太鼓はだれにもひけをとらない杉原百代(65)だが、祭りでは男女それぞれの役割があり、女は脇役だと考えている。

杉原百代さん

 「頭から、女は家の仕事と思いこんでます。結婚したら、夫や子供の衣装つくったり、つくろったり、当日の料理の準備なんかで、てんやわんや。男は、祭りそのもので手いっぱいです。女がこれやらんと、祭りがなりたちません」。そして「女が松明(たいまつ)担いだり、祭りをどうするなどの役割は、これからも考えられませんねえ。男(を外に)出さなあかんのですからね」。

 31年前、鞍馬に嫁いだ杉本泰子(58)は、火祭が盆と正月以上に、いかに重要な行事であるか、そして、家の中での女の役割が、いかに大きいかを知り、驚いた。

 「何日も前から、ちょっとずつおこわ用のクリむきをしたり、当日は、さばずしから祭りの後、夜中につくるすき焼きまで、たくさんの食べ物を用意する。お客さんが大勢入れ代わり立ち代わりで見え、大変。でも、いつも、この祭りのいいとこ見てもらおうと思い、苦にはならない」と話す。

村上忠喜さん

 そして「この祭りがあって、すぐに鞍馬にとけ込めた。祭りの最中に女同士いろいろお話ができますからね」と、火祭の持つ、コミュニティーを維持する伝統の知恵とでもいうべきものにも思いが至る。

 火祭での女の役割−。京都市文化財保護課の技師村上忠喜(48)はあくまで推測、として語る。「山国では労働がきつく、女性の仕事もおのずと重いものになる。常に動きやすい衣装を身につけ、力仕事も普通にする。男女が仕事を分け合うのです。これが火祭の中にもあらわれているのではないか」

 1カ月分の家計を、一晩に使い切るという豪気な鞍馬の火祭。この過剰ともいえる一瞬に向けて、春から祭りの準備に入る男たち。その背後にあるのは、結構したたかに祭りを楽しみもする女たちの、男を支えるパワーである。(敬称略)

[京都新聞 2006年10月18日掲載]