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鞍馬の火祭 5

次代へ伝える

 昔ながらの火祭存続への不安は、増加する観光客のせいばかりではない。祭りの主役である松明(たいまつ)の材料となるミツバツツジほか各種のシバやフジヅルなどの確保が、年々難しくなっているせいでもある。なかなか深刻だ。

 春から始まるシバ刈りは、最近では、どこに十分なシバがあるのか、その場所探しから難航を極める。

 以前のように、常日ごろから山に入る人がほとんどいなくなったことも原因だ。また、仮にシバを見つけても、花の咲くことを楽しむ人も多い。環境意識の高まりもある。容易にシバを刈りとれなくなってきた。

本田正武さん

 「毎年毎年、保存会の方に探し回ってもらい、見つかれば、持ち主にお願いして、刈り取らしてもらっているが、こんな不安定なことではいけない」と話すのは、鞍馬本町の区長を務める本田正武(68)だ。祭りの存続をかけて昨年、鞍馬の山中に由岐神社名義で、土地約6万平方メートルを確保した。木々を伐採した後の場所で、そのまま放置すれば、さまざまなシバが自然に生えてくるという。

 「時代も環境も変わった。人のふんどしで相撲をとろうとしても、いつまでも続かないですよ」と、自立して祭りを続けようとする鞍馬のチャレンジを語る。

 先に若者を対象にした「伝承の会」の開催について触れたが、鞍馬ではどんな変化があっても、昔ながらの火祭ができるよう、祭りのさまざまな決まりごとを正しく伝えなければという意気込みが強まっている。今のうちに、祭りの記録を完全に残しておこうというのも、その一つである。

 昨年、鞍馬では初めて火祭の生中継を実施した。鞍馬温泉や御旅所などに大画面を置いて、祭りの観客に離れた場所でもクライマックスを味わってもらおうという試み。観客の分散化で、少しでも祭りをやりやすくしようという狙いがあったが、その一方で、祭りの記録を残す目的もあった。

唐津正樹さんと木村文洋さん(右から)さん

 この撮影とDVD作りに携わったのが、映像作家唐津正樹(26)と演出助手を務めた木村文洋(26)を中心とした町家プロダクションのメンバー。

 「火のすごさはさりながら、御所から御霊が来たことが、仲間から他の仲間へと伝達されていく諸礼の儀式など、なんと興味深い祭りか、と驚きました。家をあげて取り組む鞍馬の姿勢にも、祭りを超えた感動がありましたねえ」と唐津。青森出身でねぶた祭を知る木村は「ほんとうに地域に密着した祭り。祭りの全容、衣装や松明などの詳しい解説もいれた。地元の人でも役割が厳しく、祭り全体を見ることができないという人もいるので、このDVDは役に立つと思う」と語る。同様の中継は、今年も行われる。

 一方、行政も、火祭の保存と活性化に向け動き出している。地元の伝統行事などにかかわる組織の連携を図り、共通する問題の解決を目指すシンポジウム開催や、映像による記録を行う京都市左京区役所の事業だ。

鈴木雄太さん

 一昨年からこのプロジェクトにかかわっている鈴木雄太(38)は、春からの火祭の準備作業にも同行し、その魅力に目を見張った。「春からシバ刈り、シバ出し、9月にはシバ分け、松明作りだけみても町中の共同作業です。鞍馬のコミュニティーの結束力そのものに、火祭のパワーのすごさがあるんだなと気付かされました」という。

 鞍馬に、まもなく火祭の日がやってくる。さまざまに環境が変わる中で、昔ながらに独自の祭りを、という住民たちの思いは日々強まるばかりのようだ。今年は、一体どんな興奮の一夜が待っているのか。

(敬称略 鞍馬の火祭おわり)

[京都新聞 2006年10月20日掲載]