メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

五花街合同公演 2 先斗町

芸所 練達の常磐津を柔らかに

フデ哉さん

 鴨川と木屋町通の間。京都市中京区、三条通一筋南側から四条通まで、細い通りを挟んで、はんなり華やいだ風情が続く。先斗町。江戸時代前期から栄えた花街と伝わり、その知名度は全国的にも高い。

 こんな先斗町歌舞練場で毎年、五月に開催される「鴨川をどり」は、祇園甲部の「都をどり」同様、明治5(1872)年の創始。その回数は今回で170回、京都の花街で最多を誇り、「芸の先斗町」を象徴する。

 今年の合同公演では、常磐津「松廼羽衣(まつのはごろも)」を披露する。

市若さん

 「ほとんどの方が知っといやすストーリーだけに、かえってやりにくおす。この演目は、先斗町でもあまり出えしまへん。三味線もなかなか難しおすし」と、今回の常磐津を語るフデ哉(や)はいう。若いころから、踊りながら語りもする常磐津のエキスパート。芸歴は60年に及ぶ。「たくさんお客さんに来てもらえますし、声の調子を整えて、立派に務めたい」

 踊りは市若(いちわか)、豆千佳(まめちか)の中堅2人。天女を踊るのは市若。入学した高校をすぐ中退し、舞妓に。そして30年ほどがたった。「専門は一応舞で、囃子(はやし)もします。1つのことを続け、そして誇りを持ってやれる仕事についていられることが幸せどす」と話す。

尾上菊之丞さん

 合同公演で踊るのはこれが3回目。「けど、羽衣は初めてどすねん」という市若に、フデ哉から「人間ではなく天女の役どっさかい、そのへんをどう演じるかどすね」のアドバイス。市若は「教えてもろたことをきちんと守り、上品に、天女という役どころをどこまでやらしてもらえるか。でも、できるには、公演直前までかかりまっしゃろか」といって笑う。

 先斗町の踊りは尾上流、師匠は家元の尾上菊之丞(64)。父親の先代がなくなったことで、22歳の時に師匠を引き継ぎ、既に42年がたった。「同じ尾上流でも、やはり東京の踊りとはなにか違う。京風のさまざまなものと自然に合体したものが、先斗町の踊りとして定着している」と思う。

岸本要子さん

 「合同公演では、井上流はじめ、各花街の様式や形が、いかに違うかよく分かる。とても貴重な機会です」と話し「羽衣の踊りを見ていただければ、先斗町の尾上流らしい、はんなりとしてやわらかい流れを感じとってもらえるはず」と尾上。踊りの2人には「覇気を内に秘め、品格を大事に。色気も少し。この心構えで、普段通りに務めれば」と、不安はない。

 芸妓組合長のもみ鶴(づる)は、合同公演を願ってもない刺激と思う。「踊りのお師匠さんも地方(じかた)のお師匠さんも、みな違います。どの方も各花街の代表どすから、これは、頑張らないかんという気になるんどす。全国からおいでやすし、えらい宣伝にもなりますしな」という。

もみ鶴さん

 映画で見た舞妓にあこがれて先斗町に。まる50年がたった。「立方(たちかた)は立方、地方は地方というんではなく、みんなが協力し合(お)うて一つのもんをさしていただいているのが、先斗町の特色どす。みんなよう勉強もしてくれはりますしね。合同公演では、こうした努力がうまくでてくれたらと思うんどす」ともみ鶴。後輩への気遣いだ。

 「芸所の先斗町。芸は一番と、どこにも負けないつもりでがんばってるのどす」というのは、先斗町お茶屋営業組合の取締で歌舞会会長岸本要子。お茶屋の家に生まれた。舞妓、芸妓の経験はなく、女将(おかみ)一筋で先斗町を盛り上げてきた。「今回の合同公演は、芸の先斗町らしく、中堅を代表する2人が、自信を持って出させていただく。円熟の芸をじっくりたんのうしてほしおす」と言葉に力が入る。

 先斗町の「松廼羽衣」は、2番目に登場する。(敬称略)

[京都新聞 2007年6月5日掲載]