メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

偏見を過剰に演出する自虐

何となく屈折 裏には自信…

立命館大助教授・冨田美香さん

「同じ映画を見ても東京で感じ得ない思いを抱かせてくれる」と京都への思いを話す冨田さん(京都市北区・立命館大)

 <日本映画が京都で生まれて来年で100年になる。初期の邦画を研究するため、東京から京都に移り住んだ立命館大の冨田美香助教授は「古い物事が財産として生活にまで染み入り、歴史の一点にいるという感動を抱かせる」と古都の印象を話す。その上で「京都は歴史の財産を生かして自ら偏ったイメージを作り出し、過剰な自己演出を試みるユニークな街」とみる。>


 京都に来て7年目ですが、「歴史の中の一点にいる」という思いを抱かせてくれる街ですね。例えば山。普段目にする稜線(りょうせん)が、1920年代の邦画や50年の「羅生門」に同じ姿で映っている。同じ風景を時間を超えて見られるのは感動です。同じ映画でも、よそで鑑賞するのとは違う思いを抱かせてくれる。

 映画の撮影所付近を歩いていても、地元の人が話しかけてきて「ここには、あのスターがいたんやで」って教えてくれる。街にあふれる有名な歴史遺産はもちろん、さりげない古い事や物が街の財産になっている。それが生活にも染み入っているのはすごいです。

 <近年「京都」の露出度はバブルの様相だ。JR東海のロマンあふれる宣伝が旅情を誘い、京都本が次々発刊されている。テレビも紀行番組だけでなく、「京都」を冠にするドラマが多い。>

 JRが宣伝するのも千年の歴史がはぐくんだ街の財産があるからこそ。また京都自身、その財産を生かし、過剰ともいえる自己演出を試みているように見えます。

 いま京都の街並みを背景にしたドラマが目立ちますが、20年代の邦画でも、京都の映画は景観を意識し、東京にない絵を撮って、観光に貢献した。今も昔も構造的には変わっていません。

 その演出の仕方が、京都の場合は自虐的で面白い。京都が映画やテレビでドラマになる際、得てして有名社寺、茶道や華道の家元、旧家などを舞台に陰湿な殺人事件が起こります。それは「イケズな京都なら陰湿な事件もあるだろう」というイメージを醸成します。現代になくなりつつあるであろう陰険な社会をあえて再生産するんです。

 普通は偏ったイメージは是正するものです。例えばハリウッド映画「ラストサムライ」。米国人が考えた日本像に日本人俳優は意見して是正した、という話がある。それが対等な関係で普通のことですが、京都は違う。

 さらにその「陰険な事件」に「伝統的な京都的なるもの」への自己批判がある。何となく屈折してません?

 そうして街を演出して結果、観光客が大勢訪れ、お金になる。たくましく、柔軟で、どん欲。表裏ある二面性を巧みに使いこなす。私のようなヨソ者には、まさに「ぶぶづけでもどうどすか」の世界ですよ。でもそんな演出ができるのも、千年の都、日本の原点としての揺らぎない自信があるからでしょうね。

 <1869(明治2)年3月、天皇が「東京城」に入り、事実上の遷都が行われた。七一年、京都は遷都で失われた活気を取り戻そうと博覧会を開く。「都をどり」もこのとき始まる。>

 自己演出する気質が強まったのは、明治遷都以降だと思います。「成り上がり」の東京を強く意識し、対抗心を燃やした。それは今でもそう。近代的なものにコンプレックスもある。だからこそ偏ってでも「魅力ある京都」を喜んで生み出す。伝統も存続させようとする。そのエネルギーがまたすごい。

 社会情勢の変化もあり、京都の伝統文化は現実的には絶えつつあります。で、どうするか。京都に舞妓のなり手がなければ他府県に求め、祇園祭の山鉾のひき手が町衆でまかなえなければ、外国人さえ連れてくる。「これが失われたら京都でなくなる」という情念さえ感じる。

 京都の街の面白さは、新旧のバランス、自信とコンプレックスの拮抗が生み出すと思うんです。ただ今は古いモノが押されている時代。それが伝統文化の現場や、街の景観問題などに現れているんでしょうね。

とみた・みか 1966年神戸市生まれ。早稲田大大学院修士課程修了。東京国立近代美術館客員研究員などを経て2000年から現職。映画草創期の基盤を築いた牧野省三らの軌跡を調べる「マキノ・プロジェクト」を立ち上げ、戦前戦中映画のアーカイブ活動に取り組む。

[京都新聞 2006年5月31日掲載]