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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

進化する納涼床

夏の京都の風物詩となっている鴨川納涼床(5月22日、京都市中京区・四条大橋西詰めから北を望む)

 歳月を越えいまに息づく伝統文化には、先人の知恵と工夫が張りめぐらされている。京都新聞が観光京都のパワーアップを目指す「京都おもしろ宣言」企画のひとつとして、現代人が見過ごしがちな京の「仕掛け」の数々を毎月特集で紹介する。初回は納涼床。江戸期からの情緒漂う夏の風物詩も、実は時代とともにかたちを変えてきた。風情を守りながらも変幻自在な床の秘密を探ると−。

 今年も鴨川沿いの二条通−五条通間約2・5キロに納涼床が並んだ。「皐月の床」は79店、6月に入ると90店が床を出す。京都ブームで京都鴨川納涼床協同組合(今春、鴨涯保勝会から改組)への参加店数は増え続け、種類も京料理を中心に多様化が進む。

 さっと歩いただけでも、フレンチの「先斗町禊川」「きしもと」、イタリアンの「クワトロ・セゾン」「スコルピオーネ吉右」、中華の「東華菜館」、コリアンレストラン「こみょん」、タイ料理「佛沙羅館」などと、国際色豊か。ワインバーやショットバーの床も目立つ。特筆すべきは、今年初めて床を出したコーヒーチェーン「スターバックス京都三条大橋店」。「納涼床の風情を変えないため組合の協力を得て学習を徹底した」(来肥住(らひずみ)健二ディストリクトマネージャー)といい、床面や手すりに木材を使うなど気を配っている。店内には利用ルールを京言葉で書いたパンフレットを用意しており、「ご予約はかんにんしとくれやす」「ペットは入られしまへんねん」といった具合。

商標登録を申請

 商標法改正に合わせて先月、組合は「鴨川納涼床」の商標登録を申請した。床のイメージを定着させ、全国的な集客を図る狙いだが、背景には納涼床の参加店が増え続け、一部に規則を守らない傾向が出ていることも挙げられる。久保明彦理事長は「商標登録を機に、伝統を損なわないよう組合の規約順守を徹底していく」と話す。

 納涼床は一定の規律の下に運営されている。もともと一級河川である鴨川での営業行為は河川法で禁じられているが、古くからの歴史を尊重し、京都府が許可している。

今年初めて仲間入りしたスターバックス。納涼床も時代とともに多様化が進む(京都市中京区・三条大橋西詰め)

 床の基準だけ見ても、高さは3・6メートル、出張りはみそそぎ川東岸より1・5メートル手前まで、手すりの高さなどについても実に細かい。材質や色目、装飾にも制限がある。

 床の風情や美観を守るため、組合が自主的に取り決めている規制も少なくない。営業期間や営業時間のほか、表札の位置や看板広告の禁止など景観への配慮は徹底している。照明は明るくても暗くてもいけない。テントや屋根の設置もだめ。雨が降れば客は屋内座敷に移動する。

 意外に知られていないのが歌舞音曲の禁止。カラオケはもちろんだが、舞踊や楽器演奏、演芸の類もご法度。芸舞妓は呼べるが、座敷で披露してもらい、客は床席から鑑賞する。たった一つの例外は長刀鉾の祇園囃子(ばやし)初げいこ。祇園会にかかわる床の歴史を尊重してのことだ。

 川を汚さないのは床のマナーの基本。各店とも風で飛ぶようなものは使わないよう努めている。はし紙は使わず、おしぼりも外袋を取って出すほど。

「触る」から「見る」

 こうした約束ごとは床の伝統を守るためだが、同時に床の形式が変化したこととも無関係ではない。みそそぎ川ができ、いまのように高床式の床が並ぶまでは、中州や浅瀬に床几(しょうぎ)を置いて楽しむ納涼が盛んだった。つまり、水に触れる納涼から、水をながめ、水音を楽しむ納涼にかたちが変わってきたのだ。五感を働かせる納涼に、騒音や装飾ほどじゃまなものはない。組合の北村保尚専務理事は「床に難しい決まりがあるわけではなく、伝統と環境を守り育てる気持ちを大切にしてほしいのです」と言う。

[京都新聞 2006年5月29日掲載]