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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京の夏とハモ

夏の京料理を代表する逸品「鱧の落とし」(京都市中京区・堺萬)

 コンチキチンのお囃子(はやし)に乗り、祇園祭が間もなく始まる。「鱧(はも)祭り」とも呼ばれるように、この時季に欠かせぬごちそうがハモだ。落としや吸い物、焼き物などハモづくしを楽しめる料理店もある。そもそも骨が多く食べにくい魚が、なぜ京料理の逸品になったのか。ハモ料理が脈々と伝わる「仕掛け」をたどると−。

 ハモ料理の老舗とされる京料理「堺萬」(中京区)。夏の名物はハモづくしだ。氷と一緒に器に盛り、梅肉で食べる「落とし」、「葛(くず)たたき」の吸い物、焼き物など7−10品を味わえる。当主の澤野輝彦さん(68)は「ハモは梅雨の雨を飲んで、うまくなるといわれます」。

祇園祭ごろが旬

 ハモは7月ごろに産卵を控え、脂がのる。祇園祭に食べるのは、そのころが一番おいしいからだ。

 京都市中央卸売市場(下京区)には、水槽付きの活魚車で生きたままのハモが続々と届く。通称「生けハモ」で、全国消費量の実に4割が京都に集中する。1年で入荷が最も多い日は例年、宵山の朝。昨年は1日8・7トン、1匹400グラムとすると2万2千匹が入荷した計算だ。

 なぜ京都でハモがこれほど重宝されるようになったのか。市場一筋55年の池本周三・京都水産協会会長(70)は「ハモの顔つきを見たら、結構どう猛やろ。顔が物語るように、こんなに生命力の強靱(きょうじん)な魚は、ほかにいない」。

 交通や冷蔵技術が未発達の時代、京都まで鮮魚を運ぶと、夏は大半が腐敗した。しかし、ハモだけは水から離れても長時間生きることができ、イキが良いまま京都まで届く貴重な鮮魚だったのだ。

工夫重ね広がる味

 どう猛なハモが、繊細な京料理の逸品に変身するには、京の料理人の創意工夫も欠かせなかった。

 骨切りは、その象徴だ。ハモは硬い小骨が体中にあり、骨切りなしでは食べにくい。骨切りは「一寸(約3センチ)を二十四に包丁する」といわれる。ただ細かく切れば良いわけでない。純白の花が開いたような「落とし」など、味も見た目も最上にするには、ぎりぎりまで身を切りつつ皮一枚を残す技が求められる。1人前になるまで10年はかかるという。高い技術は京都以外では広まらなかった。

 京料理「わた亀」(右京区)の5代目高見浩さん(47)は、義父の苗村忠男さん(74)と120種を超えるハモの料理をまとめた本「鱧料理」を出版した。鱧ずしなど伝統の味を紹介しつつ、ブドウの巨峰やバルサミコのソースをハモの身に添えたり、桜チップでハモをいぶすなど新しい工夫を加えた料理が半分近くを占める。「基本を大切にしながら、時代に合わせて料理の間口を広げないと、伝統が先細りになる」(高見さん)という。

笹島さんが作るハモと賀茂なすのパスタ。ハモを焼いたオイルでパスタを仕上げるので、ハモのうまみがパスタにのる。花穂ジソを乗せ、彩り良く(東山区のイル・ギオットーネ)

 京料理以外にも、ハモを使った多彩な料理が広がっている。八坂の塔近くの人気イタリア料理店「イル・ギオットーネ」(東山区)は、骨切りしたハモのパスタなどを夏のメニューに取り入れる。オーナーシェフ笹島保弘さん(42)は「パスタに使うハモは、皮面だけをパリッと焼き上げたりと、日本料理とは違うアプローチをしている。それでいてイタリアにもない『京都のイタリア料理』に仕上げている」と胸を張る。ウェスティン都ホテル京都(東山区)も7月に「鱧のポワレと万願寺とうがらしバスク風」をレストランのメニューに加える。伝統と、その上に立ったたゆまぬ創造が、京の料理を面白くしている。

[京都新聞 2006年6月26日掲載]