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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

京のそば事情

新そばの季節。食べるだけでなく、自ら手打ちを楽しむ市民の姿もみられる

 本格的な寒さが迫り、いよいよ年の瀬を実感させられる。大みそかに欠かせないのがそば。江戸の食文化というイメージが強いが、京都でも連綿と食されてきた。明治時代には、京都のそばを代表する「にしんそば」が生まれた。現在も、そば職人たちが創意工夫を重ね、奥深いだしと、江戸の強いこしのあるそばの融合を図ってきた。新そばのシーズン。のれんをくぐり、職人たちに京都のそばの歴史と文化を聞いた。

 京都のそばを代表するにしんそば。薄味の京風だしに、甘辛く煮た「身欠きにしん」から煮汁が染み出して、味が変化していく。京都市東山区の総本家にしんそば「松葉」で明治時代に売り出され、評判になったという。もともと伝統的に、ナスと一緒に炊いたおばんざいはあったが、柔らかく戻したり、味付けしたりするのに手間のかかる食材だ。

だしに違い

にしんそば

 「当時は貴重だった魚を、おいしく手軽に食べられるようにとの配慮だったのでしょう」と、松葉の4代目、松野泰治さん(55)。京都は山に囲まれた土地柄のため、新鮮な魚介類の入手が難しかった。干物の魚は貴重なタンパク源で、ニシンもその1つだった。松野さん自身、新しいそばの食べ方を日ごろから考えており、「一瞬のひらめきで生まれたのでは」とみている。

 関西のだしは薄口で、味に深みを出すため、昆布を使う。関東のだしは、伝統的に昆布を使わない。東西で水質の違いが大きくかかわっている。東京の水は、カルシウムやマグネシウムを多く含んだ硬水で、ミネラルが多い分、昆布のだしが出にくい。一方、京都は軟水で、昆布でだしをとるのに適している。京都のそば屋が東京に出店する際には、水のミネラルを調整してから、調理に使っているという。

ブーム根付く

南座の一角にある松葉。にしんそばは今でも人気メニューの一つ

 京都府麺(めん)類飲食業生活衛生同業組合(京都麺組合)によると、うどんが主流の京都で、そばが注目され出したのは昭和40年代以降。若手職人が東京に修業に出向き、江戸のそば文化を持ち帰り、京の伝統的な味との融合が試みられるようになった。京都麺組合理事長で、本家「田毎」の堀部勝也さん(64)=京都市中京区=もその一人。初めて江戸のそばを食べた際、「京都のそばにない、強いこしとだしの濃さ。『こんなにそばはうまいものだったのか』とショックでした」と振り返る。東京都の老舗に住み込みで2年間の修業を積んだ。

 江戸のそばの強いこし。京都の薄口のだしだと、強いこしが自己主張しすぎて合わない。「味の伝統は守らなければならない。京都のお客さんが、どれほどまでの濃い味を受け入れてくれるか。試行錯誤の連続でした」

 老舗の後継ぎたちが続々と、東京で修業を積むようになった。それぞれが創意工夫を凝らし、そばをメニューの中心にすえる店が増えてきた。手打ち体験ができる場も登場し、新そばが出回るこの季節、そば愛好家自らもそばを打つ。脱サラをしたこだわりの手打ちそば屋も生まれている。「関西では、そばブームがしっかり根付いているのは京都だけ。大みそかにはぜひ、そば屋に足を運んでほしい」と、京都麺組合。

[京都新聞 2006年12月4日掲載]