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煩悩払う除夜の鐘

日本三大梵鐘の一つ・知恩院の大鐘。大みそかには17人の僧侶がダイナミックな所作で鐘を撞く(京都市東山区・知恩院)

 年の瀬の年中行事の1つ「除夜の鐘」。この1年間に積もった煩悩を除き、新年をすがすがしい気持ちで迎えようと、大みそかには毎年、全国の寺院に大勢の参拝者が詰め掛け、あちこちで鐘の音が響く。年の暮れと明けを告げる京都の除夜の鐘の歴史や由緒をひもといてみた。

 「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…」。「平家物語」にも登場する梵鐘(ぼんしょう)の役割は本来、時を知らせることだ。朝夕に撞(つ)かれ、法要の始まりを知らせてきた。「梵」は、サンスクリット語の「ブラフマン」の音に由来しており、神聖、清浄を意味する。仏教伝来とともに日本に伝えられたといわれる。

 10月に亡くなった漢字学者・白川静さんの著作「字通」によると、「除夜」の「除」には、「はらう」とか「きよめる」「旧を去り、新を迎える」などの意味があり、「除夜」は、大みそかや節分前夜のことをいう。日本に根付いた風習を紹介した「年中行事の話」(香月乗光著)には、江戸時代の文献を引用し、大みそかの意義について「此(こ)の夜祖先百神を祭り家人集まりて飲食を共にし、以って1年を無事に送りえたことを歓びあひ、追儺(ついな)を修する風のあったことを知る」とある。

自治意識から普及

梵鐘の製造工程の「鋳造火入れ式」。1000度以上の高温で溶かされた銅とスズを型に流し込む作業は、昔と変わらず手作業だ(京都市右京区・岩澤の梵鐘)

 旧暦の大みそかは、冬から春へと季節が変わる日でもあった。陰から陽へと移り変わる際に煩悩を除くという考え方が生まれたのかもしれない。

 除夜の鐘の起源は、詳しく分かっていない。佛教大文学部の安達俊英助教授によると、中国の宋に起源があり、鎌倉時代に禅寺に伝わったといわれる。葬式や地蔵盆など、現在のような仏教行事が一般化したのは、室町時代からで「推測だが、室町時代に村の自治意識が高まり、宗教行事も自分たちで行おうとした。除夜の鐘も、そんな意識から室町時代に広がり始め、江戸時代に一般寺院でも行うようになったのだろう」という。

高い音に苦情も

 心地よい重低音を響かせる梵鐘だが、現代は「受難の時代」でもあるようだ。京都市右京区で梵鐘を鋳造している「岩澤の梵鐘」の岩澤一廣社長によると、最近の傾向として「寺院の周辺が宅地開発され、高い音だと苦情が出やすく、低い音にしてくれという注文が多い」と話す。「最近は鐘の受難の時代。大みそかには、108回といわず、200回、300回と撞くお寺がある。四国霊場八十八カ所では、1日に1000回というところもありますよ」と説明する。

[京都新聞 2006年12月25日掲載]