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知恩院の重文 アインシュタインも見学

 除夜の鐘で最もよく知られた寺院の1つが知恩院。東大寺(奈良市)、方広寺(東山区)と並び、日本三大梵鐘の大鐘(重文)がある。大みそかには「エーイ、ヒトーツ、ソーレ」の掛け声で、大綱、小綱を17人の僧侶が上体を反らせ、最大限の力を振り絞って、1分間に1回打ち鳴らす光景は有名だ。

 同寺の文化財保存局長・前田昌信さんに大鐘のエピソードを尋ねた。

 大鐘は1636(寛永13)年の鋳造で、高さ3・3メートル、口径2・7メートル、厚さ0・3メートルの国内最大級の鐘だ。戦時中の梵鐘の供出を免れたのも、大きすぎて持ち出せなかったという逸話が残る。除夜の鐘を撞く希望者が、毎年30人ぐらいいて、12月27日の試し撞きで選抜される。鐘を打つタイミングや実際に鳴らした音、撞木(しゅもく)に振り回されないかがポイントだそうだ。

 しかし、意外にその歴史は新しい。知恩院で除夜の鐘が始まったのは1930(昭和5)年から。NHKのラジオ中継の要請に答える形で始めたという。それまでは、宗祖・法然の命日に行う「御忌法会」が始まる前に鳴らすだけだった。

 もう一つ。知恩院の大鐘には有名なエピソードがある。相対性理論で知られるアインシュタイン博士が1922(大正11)年に知恩院に立ち寄った。大鐘の直下に立った後、鐘を打たせた。鐘の真下では、音波が相殺して無音の場所ができることを証明したのだという。記者も実際に鐘の真下に立って、鳴らしてもらった。「無音」ではなかったが、確かに音は小さく感じた。

「教義に合わぬ」 東西本願寺は鳴らさず

 妙心寺、延暦寺など、仏教教団の本山でも「除夜の鐘」は鳴らされるが、不思議と東西両本願寺は鳴らさない。「教義に合わない」というのが理由らしい。

 東本願寺(真宗大谷派本山)にも、立派な梵鐘がある。阿弥陀(あみだ)堂の前に、1604(慶長9)年に鋳造された梵鐘があり、毎朝、日の出のころに鳴らされたり、儀式や法要、時刻を知らせている。

 同派教学研究所員の竹橋太さんによると、そもそも、同派では108つの煩悩を除くという考え方をしないという。「煩悩があると分かることが親鸞さんの教えで、煩悩を打ち消すことはありえない。だから108の煩悩を払うという思想がない。煩悩をなくすことがいいことだという答えを求めるが、答えを求める自分が煩悩なんだと。自分は煩悩以外の何者でもない。だから煩悩を絶つことはないのです」。西本願寺(浄土真宗本願寺派)でも同様に、除夜の鐘を鳴らしていない。

108の煩悩に4つの説

 「煩悩」とは、仏教では心身を乱し、悩ませ、正しい判断をさまたげる心の働きをいう。除夜の鐘で打ち消す百八つの煩悩とは、どんなものなのだろう。4つの説を紹介すると−。

 (1)人の体や動きを意味する六根(眼(げん)、耳(に)、鼻(び)、舌(ぜつ)、身(しん)、意(い))と、三種(好、悪、平)を掛ける。心をけがす六塵(ろくじん)(色(しょく)、声(しょう)、香(こう)、味(み)、触(しょく)、法(ほう))と、三受(苦、楽、捨)を掛ける。掛けたものを足すと、計36。さらに三世(過去、現在、未来)を掛けると108になる。

 (2)人生の苦悩の根本原因の四苦(しく)(生、老、病、死)と、八苦(愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦と四苦)の語呂合わせで、四苦(4×9)と八苦(8×9)を足すと108つになる。

 (3)1年の気候を合計。12カ月、立春や大寒などの二十四節気、旧暦で5日間を一候として1年を分けた七十二候を足すと108つになる。

 (4)倶舎宗では、煩悩を「見惑」(4つの真理をみることですぐに断たれる煩悩)と、「修惑」(修行によって断たれる煩悩)に分ける。見惑は10の根本煩悩に分けられ、それぞれ欲界、色界、無色界の3つの境遇があり、その3つの境遇には、苦諦、集諦、滅諦、道諦の4種類ある。すべてを掛け合わせると120だが、そのうちに除かれるものがあり、さらに修惑の三つの界を足すと98。それに心を縛って修繕を妨げる十纏(じってん)を加えて108つとなる。

 (2)は数字のこじつけのようにも聞こえるが、あとの三つはそれぞれに根拠がありそうだ。

あらかると

 国内で特に知られる梵鐘のうち、最古の梵鐘は妙心寺にある。また、日本三大梵鐘(東大寺、知恩院、方広寺)の2つが京都にあり、日本三名鐘(神護寺、平等院、三井寺)はすべて京都、滋賀に集中している。

 妙心寺の鐘は国宝で、現在は宝物館に展示している。複製品があり、塔頭住職らが31日午後11時から90回、1日午前5時から18回撞く。参拝者は見学だけで自分では撞けない。

 知恩院では、午後10時40分から僧侶が撞き始める。一般の参拝者は見学のみで、入場は同11時40分までに規制される。方広寺では108回まで参拝者も撞ける。

 「銘の神護寺」(右京区)では、鐘を鳴らしていない。「姿の平等院」(宇治市)は、約30年前に複製品を造り、当日は午後11時半に南門から入る。1打につき5、6人。本物の梵鐘(国宝)は宝物館に保管している。「音の三井寺」は、慶長年間鋳造の鐘を打つことができる。午前0時前から打ち始める。冥加料は2千円で、人数制限はない。

[京都新聞 2006年12月25日掲載]