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巻き返す日本酒

5年前に復興した藤岡酒造。仕込みタンクが見える利き酒用のバーも設けて、消費者らと談笑も楽しむ(京都市伏見区)

 日本酒の寒造りはいまが最盛期。国内有数の産地、伏見では中小、大手の蔵元が、仕込み作業に精を出す。日本酒の長期低落傾向に歯止めがかかり、清酒業界にも明るい兆しが見える。建都以来の歴史を持つ京の酒の歴史をひもとき、その魅力を探った。

 30近い蔵元が集まる酒どころ、京都市伏見区。藤岡酒造社長の藤岡正章さん(37)は、年明け早々から日本酒の仕込みに忙しい。父の急死で一度は途絶えた酒蔵は復活から5年目の冬を迎えた。酒の仕込みから瓶のラベル張りまで1人でこなす伏見でもっとも小さな蔵元だが、酒の製造量は2002年から右肩上がりで伸びている。

 復興のきっかけは、全国の蔵元若主人らとの出会いだった。大学卒業後、東京で地酒に強い酒問屋に勤めていたが、会議で同年代の若主人らとよく顔を合わせた。醸造学の化学知識を生かしながら、職人のこだわりも発揮してものづくりに取り組む若主人たち。消費市場では、本物志向のお酒が人気を高めている。北陸、東北、九州の知り合いの蔵元で3年間修行し、「徹底的な職人志向の酒を造りたい」と家業を再興した。

京ならではの製法

 4本の仕込みタンクで造るのは、すべてアルコールを添加しない純米酒だ。消費者の感度が高い東京、地元の京都など小売店約30軒のみに卸して、口コミによる自然発生的な販売拡大を進める。また、酒蔵には、仕込みタンクがみられる利き酒できるバー「えん」を設けて、消費者と触れ合える場にしている。

 酒の銘柄は「蒼空(そうくう)」。伏見発のこだわりの地酒として、清酒復活の気運につながるか期待されている。

寒仕込み作業に忙しい洛中唯一の蔵元、佐々木酒造。京都産の米や麹でつくるこだわりの日本酒が人気だ(京都市上京区))

 また洛中唯一の蔵元、佐々木酒造(上京区)では、専務の佐々木晃さん(36)が、ピークを迎えた酒造りの指揮をとる。純米吟醸酒「京生粋」など京都産にこだわった酒造りを進める。千利休が茶の湯に使ったとされる地下水と府内産の酒米に加えて、市産業技術研究所(下京区)が開発した京都独自の麹(こうじ)を使う。「地元産の材料にこだわり、京都ブランドらしい香り高いお酒を造りたい」と、佐々木さんは日々仕込みタンクをのぞき込む。

若者向けに手応え

 一方、齊藤酒造(伏見区)社長の齊藤透さん(49)は、百貨店などで行う若者向けキャンペーン販売に手応えを感じている。キャンペーンでは、インターンで受け入れた立命館大の学生が考えた「欲しいのは、キッカケ」のキャッチコピー看板と、180ミリの飲みきりサイズの酒と親子ら2人分のちょこの特注セットを並べて売り出す。営業員は20代の若者と父親が酒器を傾けるキャンペーン看板の絵柄を示し、日本酒が演出する生活の楽しさを伝えるよう試みる。

 いま、バレンタイン向けのキャッチコピー作りを進める。同社は蔵元が自慢の一品を出品する「全国新酒鑑評会」(酒類総合研究所主催)で、全国唯一、9年連続で金賞を受賞しているが、齊藤さんは「若者など将来を見通して市場を広げる動きこそが、中小蔵元が生き残るポイントだ」と力を込める。

出荷量、低迷から反転攻勢へ

 日本酒の出荷数量にも低迷脱却に向けた明るい兆しが伺える。日本酒造組合中央会(東京都)によると、全国の清酒出荷数量は2006年1―10月の10カ月間のうち、5、6月が前年実績を超えた。伏見酒造組合(伏見区)では、1、8、9月も含めて計5カ月で前年を上回り、「低迷が底を打ち、反転攻勢に入った」とみる業界関係者も多い。

 全国ベースでは、純米酒が全10カ月間で前年超えするなど、原材料や品質にこだわった高級系の特定名称酒の好調が目立ち、中小蔵元の奮闘ぶりを感じさせる。また、海外での日本食ブームに合わせて、海外市場を広げる動きもある。清酒大手の月桂冠と宝酒造は、米国などでの輸出や現地生産を年々伸ばし、国内トップ級の海外売上高を誇る。

 日本酒の出荷数量は1970年代のピークから半分にまで落ち込んだが、伏見酒造組合理事長の山本源兵衛さん(55)は「市場動向の変わり目を清酒低迷から復活へのチャンスと考えたい。蔵元が技術やサービスを競い合い、学び合うことで活路が開く」と力を込める。

[京都新聞 2006年1月15日掲載]