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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

中国人観光客

「国民総文化」時代へ

平安女学院大学助教授・劉明氏

京都五花街合同公演の舞台。芸舞妓の華やかさがさらに気軽に味わえたら

 中国から京都を訪れた旅行者は、2004年で3万人(宿泊者数)を数える。同じ年、日本への中国人旅行者は約60万人、海外への中国人旅行者は約3千万人。先の数値と比較すると、それぞれ20分の1と1000分の1である。京都が世界的な国際観光都市とすれば、この数はまだ少ないと見るべきだろう。中国人観光客に対するホスピタリティーと観光商品の検討が必要である。

 ところがいま、京都の行政や旅行会社、宿泊施設とも、中国人旅行者のニーズに対する知識が十分とはいえず、中国人向けの観光企画に一種のずれを生じているのが実情だ。もっと中国人の興味を引くような仕掛けを考えるべきだ。

 そのために、まず国民総生産を指標としていた時代から「国民総文化」の時代へ、発想を転換しなければならない。それでこそ日本人の心のふるさとである京都の文化力が重視される必然性が出てくる。

 実際、茶道・華道、伝統芸能から今日の大学、先端産業に至るまで、京都の持つ文化力が中国と長く歴史的接点を持ち、いまなお中国人の関心を引く要素に満ちていることは、意外に知られていない。京都文化が中国人観光客に与える影響力は大きいのである。この前提に立って、中国人観光客のニーズを見定め、観光戦略を立てれば、インバウンド・ツーリズムの振興を図るのは、さして難しくない。

 中国歴史を意識した京都文化の紹介とともに、中国人の好みに合った仕掛けを考えるのもおもしろい。たとえば、中国式喫茶店「茶館」をヒントに「舞妓茶館」というのはどうだろう。本物の舞妓でなくても、一定の知識と技芸のある女性に舞妓の装いをしてもらい、観光客と京都の歌舞音曲を鑑賞したり、その歴史を紹介するのである。

 また、現代社会の流行語のひとつ「いやし」にも注目したい。国内では温泉がブームを呼んでいるが、これを海外に宣伝しない手はないだろう。風紀の整った京都の温泉施設でなら、芸舞妓姿の従業員が観光客に風情を披露するくらいの寛容さがあってよい。

 特に中国人は、ショッピングと並んでマッサージなどの健康メニューに関心が高い。風土の異なる日本で、中国人の大好きなお茶や洗脚(足を洗いマッサージをする)を導入するだけでも、大きな誘致効果をもたらすことは受け合いだ。京都観光は昼だけでなく、朝も夜もあることを忘れてはいけない。

 ここまで書くと、京都人は憤りを覚えることだろう。外国人がにせの京都文化を提唱するのかと。決してそうではない。時代によっては、守るべき伝統と、レプリカでも楽しめる娯楽施設との使い分けが必要だと言いたいのだ。

 変身舞妓、つまりにせの舞妓が論議になっているが、それは変身舞妓があらゆる観光地を歩き、他の観光客に誤解を与えるケースがあるからだ。場所と設定を限れば、花街の伝統を汚さずに舞妓という京の「顔」を広めることは可能なのである。

りゅう・みん 1957年上海生まれ。上海外国語大卒。78年中国国際旅行社入社、86年に初来日し、日本における国際観光市場調査を実施。2005年から現職。主な論文に「京都の国際観光とホスピタリティ」など。

[京都新聞 2006年3月21日掲載]