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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

大人のまち

自分を取り戻せる所に

インターアクト・ジャパン代表 帯野久美子氏

観光客でにぎわう高台寺周辺の散策路「ねねの道」(京都市東山区)

 好天気に恵まれた連休も終わり、京都のまちは日ごとに緑が濃くなっていくようだ。遅かったさくらが散ったかと思うと藤が咲き、つつじが終われば、やがて菖蒲(しょうぶ)の花便りがきこえてくる。四季それぞれに顔のある京都は、訪れるたびに新しい。

 京都に集まる観光客は年間4千5百万人を超える。その数は平成7年以来、毎年増えつづけているという。人は何を求めて京都にやってくるのだろうか。

 京都市によると、訪問客には、「50代」の「女性」が圧倒的に多い。20代は、すでに1割強に落ちこんでいて、それまで半数を占めていた男性客も、なぜか「男女雇用機会均等法」が制定された年から減り続け、今ではたったの3割にすぎない。

 「50代」の「女性」たちはどこへ行くのか。訪問先のデータを見てみると、ちょうど平成7年ごろを境に、いくつかある観光地の中で「清水寺」だけが伸びている。その清水寺を中心に東山周辺で増えているもの。それは、土産物や飲食を中心にした町家再生店舗だ。彼女たちは、「社寺仏閣」から「界隈(かいわい)」歩きに、観光パターンを変えてしまった。

 平成元年ごろに始まった町家の再生は、店舗数だけでも現在、500軒を超えている。町家ブームは京都をよみがえらせたようだ。例えば、神社や寺で「非日常的」な時間をすごした後、古い町並みを歩き、ふと町家に立ち寄ってみれば、中はイタリアンだったり、フレンチ・レストランだったりする。その意外性が楽しいのか、敷居の高かった京都のまちが、明るく華やかに感じられる。

 一方で、住民の3割が「家族への思い」など個人的なこだわりから守ってきたと答えている町家には、住んでいた人の気持ちがこめられているのだろうか。建物全体がどこかあたたかく、訪れる人の心を癒(いや)してくれる。町家は、「子育て」や「仕事」から解放されて、もう一度自分を取り戻したいと京都にやってきた女性たちを「よう来たね」「おかえんなさい」と迎えてくれるみたいだ。

 そんな「大人」の女のひとりとして、私も時おり、自分さがしに京都に出かける。季節の花も、寺の静寂も、町家のあたたかさも、京都はいつも変わることなく心を満たしてくれるのだが、最近気になるのが、あまりに人の多いことだ。清水から八坂にかけて、通りはいつも人であふれかえっていて、ショップの品ぞろえも、ソフトクリームからマグカップまで、落ち着きのない商品が多い。

 修学旅行客もよいけれど、京都は大人の旅人のことを忘れない方がよい。「50代」の「女性」に限ったことではなく、「物」から「心」の豊かさを求めるようになった社会では、人がまちに求めるものも変わってくるのだから。ヨーロッパのまちがそうであったように、日本のまちも成熟していかなければならない。大人のまちが似合う京都なら、それができそうな気がする。

おびの・くみこ 1952年大阪府生まれ。追手門学院大卒。甲南女子大大学院博士前期課程社会学専攻。翻訳業などを経て85年株式会社インターアクト・ジャパン設立。関西経済同友会幹事など歴任。追手門学院大客員教授。

[京都新聞 2006年5月16日掲載]