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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

考える観光へ

歴史、文化の流れ俯瞰

京都駅ビル開発社長 南隆明氏

観光客の人気を集めるJR京都駅ビル。歴史都市京都の玄関口としての役割も増している(京都市下京区)

 この春、東京から来た親子が「京都は今のままでいてほしい」と言っていた。東京にないものへのあこがれが込められているのだろうが、素直に同調できなかった。

 この街は千年の歴史を持つ都であったが故に、常に世の中の最先端のものをそれぞれの時代でダイナミックに取り込むことができたし、またそれをそしゃくして発展してきた。京都駅ビルも構想以来、景観などをめぐる種々の議論があったが、今秋ではや開業9年を数える。この駅ビルもいずれは京都の歴史にのみ込まれ、同化していく運命にあるのだろう。

 駅ビルにはデパートやホテル、物産品のショッピングゾーンなどの商業集積があり、京都劇場という文化発信機能も持っている。劇団四季の公演は、京都でミュージカルは難しいとの前評判を覆し、昨年12月に来場者が100万人を突破した。今様のミュージカルファン層が予想以上に厚いことを証明した形となった。

 大空に達する大階段がある室町小路広場を中心に、正月の「階段かけあがり大会」から大みそかのカウントダウンまで年間600超のイベントを展開している。週末のコンサートは、日ごろの練習の成果を発表するよい舞台で、多いときは2000人が集まる。

 京都駅ビル全体では年間約3700万人が来場し、京都観光のゲート(玄関口)の役割を果たすとともに、ビル自体が京都でも有数の観光スポットとしてのポジションを得ている。このほか京都の和装文化のよさと洋装の交流、融合を図るため、毎年「ファッションカンタータ」を開催している。14回目となる今年は6月17日で、全国から1万3千人の応募があった。

 ところで、故松下幸之助氏が主宰していた「世界を考える京都座会」は今から25五年前、関西での歴史街道構想を提言した。伊勢、奈良、京都、大阪、神戸とつながるベルト地帯は、古代から開国にいたる日本の歴史の歩みが凝縮された地であり、その認識を国内で深めるとともに海外にも積極的にアピールする狙いだ。現在までその努力は継続され、周辺地を巻き込みつつ展開されているが、中でも京都は異彩を放っている。

 世界を見渡せば、都市遺跡が観光施設となり、観光客でにぎわっている事例は数多いが、京都のように現代も発展し続ける都市はきわめて珍しい存在だ。しかも街で見聞きする事象は、本来重層的な歴史と文化の堆積(たいせき)であるはずなのに、そのルーツを考えさせないほどに京都化し、日本的風景として定着している。

 しかし、どうすれば世界との交流の中で歩んできた日本の姿の全体像をとらえることができるだろうか。「見る、食べる観光」から「触れる、体験する観光」への転換が言われて久しいが、さらに「考える、考えさせる観光」への脱皮を求めたい。歴史や文化を考えることは、品格ある日本人を育てる大きな力となるにちがいない。

 そこで、日本の誕生から現代までの歴史、文化の流れの全体を俯(ふ)瞰(かん)できる「日本歴史ミュージアム」といった博物館機能を整備してはどうだろうか。関西の中でもとくに観光客五千万人を目指す京都市内に誕生すれば、観光客にとってはピンポイントの観光を手がかりに、京都観光の厚みと広がりがより一層増すと考える。

みなみ・たかあき 東京大卒。1967年旧国鉄入社。87年JR西日本総務部長。92年取締役。97年常務旅行業本部長。日本旅行副社長、ホテルグランヴィア大阪社長などをへて2005年6月から現職。京都府出身。62歳。

[京都新聞 2006年5月30日掲載]