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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

映像文化の聖地

才能育む「ふ化器」に

立命館大政策科学部教授 細井浩一氏

京都の持つ映像資産の活用について話し合う太秦映像プロジェクトの初会合(今年3月)

 最近の新入生に「京都は映画とデジタルゲームという2つの映像文化を生み出した日本の原点」だと話すと、「初耳だ」と言われて、かえってこちらが驚くことが増えてきた。

 最近の若者にとっては、映画やゲームというのは海外から輸入されたものか、東京を拠点に制作されたものだというイメージがあるらしい。しかし、もちろん京都は日本の映像産業発祥の地であり、世界を驚かせた幾多の映画が生み出された地であり、ゲーム機などの高い映像表現技術とその関連ノウハウが蓄積されている「聖地」である。

 20世紀を映像の世紀と称することがあるように、すでに私たちのコミュニケーションの多くは、言語やシンボルだけでなく映像そのものによって交わされるようになっている。そして、21世紀に入って映像のデジタル化と情報ネットワークによる流通システムが急激に発達し、私たちは世界の映像コンテンツに非常に簡便にアクセスできるようになった。いまやハリウッド製映画や韓国製オンラインゲームなどを、いつでもどこでも楽しむことができる。

 とはいえ、グローバルな映像コンテンツを楽しめる環境が世界中で整うにつれて、半面、国や地域固有のテイストのある映像文化が徐々に失われていく可能性も指摘されている。京都府の呼びかけにより、京都市、京都商工会議所、東映、松竹に加え、京都造形芸術大学や京都大学、立命館大学など、そうした問題意識を共有するメンバーが集まり、今年3月から「太秦映像プロジェクト」が始まった。太秦地区の映像関連資産を活用しつつ、デジタル時代における京都の映像文化創造を目的とした初の産学公連携による研究会である。研究会では、デジタル時代に対応した映像制作や映像配信の最新動向に加えて、衣装や小物、鬘(かつら)など京都の映像コンテンツを支えてきた基盤的、周辺的な技術やノウハウにも注目している。デジタル時代であるからこそ、そのようなアナログ的な知恵を活用できる手法がないかというテーマにも取り組んでいる。

 学生の街・京都には多くの大学があり、芸術系分野において映像関連の学部、学科を有する大学や専門学校も少なくない。私が勤務する立命館大においても、来年度に「映像学部」の開設を予定しており、映画やゲームをはじめとした映像分野の本格的な教育研究に取り組む準備を進めている。学生たちは、京都に長く蓄積された文化や歴史と、その上に花開いた日本の映像表現の遺伝子を継承し、新しい世代の新しい映像文化を創(つく)り上げる卵である。

 京都は、街全体がひとつのふ化器となって、新しい時代の才能を育(はぐく)むことができる絶好のロケーションであろう。京都が、昔ながらに学生を大切にする街であり続け、そして京都伝統の産学公プラス地域の連携パワーの相乗効果が得られるならば、まったく新しい映像産業が再び創出され、世界が再び日本発、京都発のオリジナルな映像作品に驚がくし、新たな観光資源にもなる時が必ず来ると確信している。

ほそい・こういち 石川県金沢市生まれ。専門は経営学、コンテンツ産業論。立命館大学アート・リサーチセンター副センター長、日本デジタルゲーム学会副代表、日本シミュレーション&ゲーミング学会理事を務める。著書に「コーポレート・パワーの理論と実際」ほか。

[京都新聞 2006年6月6日掲載]