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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

外国人観光客

海外に文化売り込め

京都外国語大学フランス語学科教授 平山弓月氏

京都を多くの外国人に訪れてもらうには、街の「多言語化」も重要になる(京都市上京区・京都御所)

 近年、京都を訪れる外国人観光客の数が伸び悩んでいると聞く。私は一介のフランス語教師だが仕事上、世界に冠たる観光都市パリに赴く度に外国人観光客の多さを目にし、翻って京都の外国人観光客の少なさについて考えさせられてしまう。

 京都は「人あしらい」にたけた人の街だという。京都が保有するこういった資質を、観光に生かさない手はない。と言っても、現代の日本人にすらなじみが薄くなってしまった感のある茶道、華道などの伝統的な「人あしらい」の粋が、外国人観光客の誘致に直接つながるとは考えにくい。

 ところで昨今、「人あしらい」のいい意味での同義語である「もてなし」が、京都観光のキーワードとしてしばしば使われる。この語は特に最上級の旅館料亭に特化されているようだが、この感覚を街全体に広げてみてはどうか。

 訪れた先の街を、気ままに歩くのは旅の醍醐味(だいごみ)である。そこに住まう人と同じ歩調で違和感なく街を楽しめれば、旅を終えた後も再び訪れたくなるに違いない。そういった街にすることが、京都の街を活性化する一つの手立てになりはしないだろうか。

 京都を、外国からの客人にとっても歩きやすい街にしなければならない。観光における多言語使用、つまりどの国の人にも母語で歩き回れる街にする必要がある。

 中欧のある観光施設では、イヤホンサービスではあったが35カ国語対応でガイドがなされていた。「もてなす」とは、心をこめて客に接することであり、相手の立場に立って考え、準備することである。

 京都伝統伎芸振興財団がこのほど、祇園をはじめとする五花街で、数カ国語によるガイドマップ作製や、芸舞妓さんを対象にした英会話研修を実施する方針を固めた。素晴らしい計画だ。それだけに、それが「フジヤマ・ゲイシャ」の轍(てつ)を踏まぬよう願う。

 観光拠点となる神社仏閣も、外国語版の案内パンフレットを作製している。しかしその多くは、日本語文の単なる翻訳であり、外国人の理解の届くものとは言いがたい。相手の理解が得られるよう、相手の知りたいことを提供できるよう、われわれの文化を相手の文化の中に「翻案」したものであってほしい。

 また、京都の街を半日や1日で回る観光バスには、イヤホンサービスでもいいから、数カ国語での案内ガイドを備えたらいかがだろう。京都には先端的なIT産業もあり、また外国語に堪能な人々も多く住んでいる。協力を仰げばそれほど難しいことではない。

 さらに「点」の取り組みを「面」の取り組みにしなければならない。幹線道路には、ローマ字やハングルを併記した道路標識も設置されてはいるが、数も少なく、見やすい位置にあるとは言い難い。

 最も安価な交通手段としてのバスも、ローマ字表記、ハングル表記、簡体字表記の路線図はあるのだから、街中のどこででもそれが手に入るようにすれば良い。バスの発着所がいくつにも分かれている場所での、多言語併記の案内板設置などすぐにできることから始めてほしいと思う。

 座して待っていても観光客は増えない。こうした対応を整えた上で、積極的に海外に「京都」を発信し、売り込む事業を始めようではないか。

ひらやま・ゆづき 1949年、京都市生まれ。大阪外大卒。専門はフランス語、フランス文化論。平成16年度文科省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に、同大学の教育プログラム「官学連携による観光振興―多言語で京都を発信する」が選定されるにあたって、多言語データベース構築など事業推進責任者を務める。

[京都新聞 2006年7月25日掲載]