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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

きものの美人力

「素敵」と声を掛けて

きものステーション・京都チーフ・ディレクター 牧野茜氏

祇園祭では浴衣姿の女性が目立った。本格的なきものへの関心につなげたい(7月12日、京都市下京区四条通での鉾の曳き初め)

 祇園祭や大文字の送り火で、京都の街が浴衣姿の人であふれる夏は、一年で一番和服に親しむ人の多い季節ともいえます。アンティークきものから火が着いたきものブームもあって、浴衣やきものを気軽に楽しむ人が増えました。

 京都では、きものを着た人にちょっといいことがあります。秋にはきもの姿で優待や特典が受けられる「きものパスポート」が配られ、春には「伝統産業の日」(3月21日)の前後に市バス・地下鉄のきもの無料乗車券が使えます。

 私がいる「きものステーション」でも、きものを着るのに最適な春秋に「ぶらりきものレンタル」を実施しており、京都の街をきもので観光したいという女性に大変好評です。これらは、浴衣から和装文化に一歩踏み出してもらえるよう、町ぐるみの取り組みです。

 でも、きものが似合う街とされる京都は、きものを着る人に本当にやさしい街でしょうか。確かに和装産業の中心地であり、他都市と比べて、きものが職業と密接にかかわりがあり、仕事着がきものという人も多く、着物姿の人を見ない日はありません。しかしその分、きものを見る目も厳しいのです。

 せっかくきものに興味を持ち、勇気を出して着てみたビギナーが「そんな格好して!」という意地悪な視線にさらされ、知らない人からも注意を受け、すっかり萎縮(いしゅく)してしまった−と言う声はあちこちで聞きます。

 私がきものに出会ったのは京都でした。きものの世界に魅せられ、幸せなきものライフを続けてこられた一番の理由は、「あなたのきもの姿が楽しみだ」と言ってくださる人がたくさんいたことです。もっとおしゃれに、きれいにきものを着たい、という気にさせられるのです。

 きものに関するアンケートを集めると、きものに対する漠然とした憧(あこが)れがある一方で、きものは高価だ、着付けが難しい、苦しい、TPOや衣替えといったルールが厄介…などネガティブな意見があふれ、必要以上に特別視する傾向があるようです。でも「きものを着ているあなたは美しい」といわれると、そんな壁は簡単に越えられます。

 街にきもの姿の女性を増やすにはどうすればいいのでしょう。方法は単純です。きもの姿の人を褒めるのです。たぶん、イベントやお得なサービスよりも効果的です。

 多少センスが悪くても、季節外れの柄でも、着付けがひどくても、「きもの姿のあなたは素敵(すてき)だ」と言ってあげてください。褒められた女性は、おしゃれ心をくすぐられ、もっときものを着たくなるはずです。憧れからスタートした女性が、きものには女性の輝きを増す力、いわば美人力があると気づいたら、面倒なTPOや季節のルールも自ら知りたくなるでしょう。

 皆さん、奥さんや娘さん、お母さんなど、まずは身近な女性から、ぜひ今日から実践を。そして、街ですれ違う見知らぬ女性にも笑顔で「きもの姿のあなたは素敵です」と、声を掛けてほしい。きもの美人が街にあふれるようになれば、京都はもっと素敵な街になるはずです。

まきの・あかね 1977年静岡市生まれ。京都大学法学部卒。「1998京都きものの女王」に選ばれ、その後きもの愛好会「なでしこ会」を結成、若い女性がきものを楽しむための活動を続ける。きものパスポートのポスターなど、きもののスタイリストも手がける。

[京都新聞 2006年8月1日掲載]