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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

交流する観光へ

本物志向への対応を

「月刊京都」編集長・山岡祐子氏

京友禅の技法を体験する観光客ら。京都の「匠の技」に関心を持つ人が増えているよう)

 京町家では、6月になると建具や敷物も夏のものに衣替えする。最近、その様子を見たい、体験したいという希望が多いようだ。先日も「月刊京都」の読者を対象に京町家の暮らしぶりを聞く会を催したら、読者から次々と質問が飛び出し、活発な交流が生まれた。

 基幹産業への成長が期待される京都の観光事業は、名所旧跡を見る観光から、暮らしを知る、体験する観光へと変わりつつある。観光客は、京都の街が持つ雰囲気や独自のライフスタイル、また、伝統として継承されてきた匠(たくみ)の技に関心を寄せ、京都の奥深くへ、本物へと近づこうとしている。

 現在は、社会・経済パラダイムの転換期だ。高度経済成長を経て、バブル景気、その破たんと移りゆく中で、人々は物質的な豊かさを超えた本当の豊かさ、ある種の精神的充足を求めるようになった。

 これは国内だけではない。ヨーロッパ諸国でも経済成長信仰が崩壊し、長期的かつ地球規模での経済を模索する動きが広がっている。大転換の中で、新しい価値観やライフスタイルの探求が始まり、そこに京都の街が持つ、もしくは京都に象徴される精神性や「和」の価値観を見直す機運が生まれてきた。世界での日本ブーム、日本での京都ブームの本質は、そうした背景のもとにあるのだろう。

 「月刊京都」の読者は、年2、3回以上、京都を訪れるという人が6割を占める。近ごろ、読者から奥深い京都情報を望むアンケートが増えた。その中にこんな文面があった。「京都の人々が今なお守り抜く信仰や哲学は、私たち日本の大人の心のあり方にも問題を提起してくれているような気がしてならない」。

 京都に暮らす者は京都の魅力の本質をもっと認識すべきではないか。

 歴史文化の街、京都。もし、文化にも「遺伝子」があると考えれば、この「遺伝子」を継承するものは2つある。1つは文化を生み出してきた装置としての「京の街」。もう1つは、その文化の中で暮らす「人」である。

 まずは神社仏閣、町家など個々の建造物だけでなく、「京の街」そのものを保全することを考えたい。市街地と山、川、森などの自然がうまく調和を保ったまま共存している街はほかにはない。京都の街が持つ空気、水、ゆったりと流れる時間も受け継がれなければならないと思う。

 伝統芸能や産業の後継者、また、新たな文化創造者を育成することも重要だ。文化の継承は創造的な土壌の中で行われる。その意味で、伝統を受け継ぐだけでなく、新しい文化を生み出す創造者=クリエーターを支援することも大事だろう。また、表現の場、機会を提供することはもちろん、創造者を歓迎する文化の土壌もつくる必要がある。

 装置としての「京の街」で「遺伝子」を継承する人々と出会うこと−そこで生まれるコミュニケーションこそが新しい観光資源をつくりだし、好循環を生み出すのではないか。人と人が出会えるようなコミュニケーション観光を私は提案したい。私たち観光メディアは、こうした出会いの場の情報や機会の提供、そして場そのものの演出をも担っていくべきだろう。

やまおか・ゆうこ 1959年、京都市生まれ。立命館大経済学部卒。白川書院取締役、「月刊京都」編集長。日本ペンクラブ、日本旅のペンクラブ会員。共著に「関西周辺の宿」「西日本の宿」「三都周辺の宿」(いずれも白川書院)などがある。

[京都新聞 2006年8月22日掲載]