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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

美観は文化

都市の存在価値向上を

京都工芸繊維大教授・久保雅義氏

民家を押しのけるようにビル群が目立つ京都市街。都市ブランドに不可欠の美観は守れるか(京都市下京区堀川通仏光寺付近から南を望む)

 2年連続で「京都ブランド創生」の講義を、一般人と学生を対象に本学で実施した。講師は京都の代表的企業のトップの方々にお願いし、京都の都市格向上についてお話を頂いた。講義終了時にアンケートをとり、「京都のブランド価値を高めている項目」について聞いた。上位より「町並み・歴史的景観」55・4%、「歴史的な寺社の保存」51・4%、「質の高い芸術・文化・伝統芸能」50・0%、「1200年の歴史」46・4%、「山紫水明にあふれた自然」30・6%などの結果が得られた。

 「京都のブランド価値の阻害要因」については、「交通渋滞や交通アクセスの不備」49・5%、「屋外広告物や建物の高さなど町並みの荒廃」48・6%、「美化意識の低さ」30・2%、「伝統産業の衰退」27・9%、「治安の悪化」20・7%、「緑化への取り組みの遅れ」19・8だった。このことは、京都ブランドの価値を高めるのに不可欠な美観が崩れ、危機感を生じている事態を反映している。

 京都にとって、観光は重要な産業であり、観光客の楽しみは京都独特の景観にある。作家の司馬遼太郎は『古往今来』の「京都国としての京都」の中で、京都の景観への考え方が日本の中では非常に崇高で、「自分や自分の家がまちの美的秩序や倫理的秩序に参加している」とし、「都市を形成しているものは造形と市民意識両面からの秩序感覚」としている。京都は、日本で唯一無二の美しい景観をコアコンピタンス(中核の力)とすべき都市なのだ。

 ところがいま、この京都に秩序ある景観が損なわれ、無秩序な景観を是とする意識がはびこりつつある。この意識は▽公共意識の未成熟▽禁止事項でしか秩序を保てないお上だより▽経済至上主義などによる。美観は文化であり、そこで暮らす人々の意識や行為と深く結びつく。私たちは京都の美しい景観を守るため、生活意識の質的向上を図るべきだ。

 景観の秩序を高めるために、2つの方策を提示したい。ひとつは「ノブレス・オブリージュ」。つまり自己制限に基づく公共精神の導入。もうひとつは、美しい景観を形成するための積極的な情報発信である。

「ノブレス・オブリージュ」は、公共モラルを話題にする際使われ、欧州の歴史都市に見られる統一感を重視した精神。統一した要件によるデザインを市民が共有するという考え方である。美の情報発信は、伝統の維持と景観に込められた強いメッセージを国内外の観光客を含めた広範な支持者に発信し、都市の存在価値を高めることである。発信する中身は、歴史文化や都市理念、サービス、技術、審美性・革新性などが挙げられる。メッセージをできるだけ絞り込み、視覚化して伝達すれば、支持者との緊張感が維持できるはずだ。

 「美観は文化」という市民意識が醸成され、内外に力強く発信できれば、それは必ずや多くの支持者の心に響くはずである。

くぼ・まさよし 1953年、和歌山県生まれ。京都工芸繊維大大学院修了。松下電器産業デザイン部門部長を経て、2004年8月から現職。Gマーク審査委員など歴任、著書に「パナソニックデザイン社の革新デザイン創出」など。

[京都新聞 2006年9月12日掲載]