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 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

観光と京都人

暮らしの奥深さ発信

写真家 水野歌夕さん

町家の中庭。落ち着いたたたずまいが、京都ならではの景観をつくる(京都市上京区)

 写真を撮り始めて10年が過ぎました。ファインダーを通して見る京都は常に新鮮な美しさに満ちています。カメラを持って出れば、いつでも楽しい出会いがあります。景勝地として大勢の観光客が訪れる神社仏閣はもちろんですが、ありふれた町家や、私たちが「ろーじ」と呼ぶ狭い路地にも、京都らしい独特の美しさが秘められています。

 今、生まれ育った西陣の真ん中に住んでいます。水野家は、4代前が京極家に仕えた武士で、明治維新で京都に出て織物関係の仕事を始めたそうです。祖父の代まで、ジャガード織の紋意匠の製図と、一目ひと目、紋紙に穴を空ける作業をしていました。職人さんたちは皆、自分が京都人だという誇りを持っていました。

 そんな環境に育った父や私が京都にこだわって撮った写真を大勢の人に見ていただこうと、大宮通元誓願寺に「町家写真館」を開いています。訪れてくださる方の大半が、京都が好きで何度も訪れているという「リピーター」の観光客です。

 そういう人たちと接して感じるのは、「京都の奥底をもっと知りたい」という欲求です。有名な観光地やお祭りをひととおり見終わって、ますます京都が好きになったという人たちが求めているのは、京都人の暮らしぶりそのものです。

 たとえば、昨今注目されているものに、京町家があります。「ウナギの寝床」などといわれる敷地を上手に使い、通り庭やおくどさん、坪庭、土蔵などを配した町家は、京都文化をはぐくんだ「器」です。昨年から、隔月のタウン紙に「町家で暮らす日々」というタイトルで連載を始めて、わが家の暮らしを撮り続けているのですが、気づかなかった町家暮らしのすばらしさや意味を発見し、新鮮な気持ちです。

 この春、ひな祭りの写真を撮ろうと、家にある人形を並べると、100体以上もありました。祖母の代から受け継がれているもののほか、親類やご近所からいただいたものもあります。昔のままごと遊びの道具も出てきました。

 これらにどれほどの値打ちがあるかはわかりませんが、京都の町家には、そうした懐かしい文物がさりげなく眠っているのです。小さな祭事や四季の行事にも、意味があります。そうした底の見えない奥深さが、東京圏をはじめ全国の京都ファンをひきつけるのでしょう。

 これまで観光客は、観光産業にかかわる人以外には、迷惑がられてきた一面があります。道路の混雑や、ごみ、騒音の問題もあります。しかし、京都が「京都の内側」だけで豊かに食べていける時代ではなくなりました。観光は京都にとって貴重な産業です。  と同時に、観光客の「外部の目」は、京都人が当たり前すぎて見過ごしてきた京都のすばらしさに、あらためて気づかせてくれます。たとえば、かつては見向きもされなかった町家は、ブームのおかげでレストランや事務所として保存・活用される例が増えています。

 山、川など自然に近く、文化の薫りもし、町がコンパクトで食べたり遊んだりするにも便利な京都は、町全体が観光客にとって魅力なのでしょう。美しい京都を守りつつ、それにあこがれて訪れる方々と、深く長く、心を込めたお付き合いをしていきたいと思います。

みずの・かゆう 1969年京都市生まれ。佛教大卒。京都現代写真作家展で優秀賞2回、2003年には大賞を受賞。父の写真家水野克比古さんのフォトスペース「町家写真館」館長。写真集に「京の路地風景」(東方出版)など。

[京都新聞 2006年11月2日掲載]