メニュー
 京都新聞は、観光都市京都のパワーアップを目指して企画「観光・京都おもしろ宣言」をスタートさせました。人々の価値観はいま、物の豊かさから心の豊かさに移りつつあります。京のまちは伝統、歴史、自然環境と、どこを取っても格別な魅力をたたえてきました。京都新聞はそうした魅力に光を当て、京都を元気にする紙面を多彩に展開するとともに、フォーラムやイベントの開催、伝統文化体験の案内など、さまざまな「おもしろ」企画を発信していきます。

アーカイブ

保存と発信 原動力に

平安女学院大人間社会学部教授 清水宏一氏

大型スキャナーを使ってデジタルアーカイブ化される襖(ふすま)絵

 西洋には古来、文書や史料の保存方法として3つの方式が伝えられて来た。本のかたちで保存する「LIBRARY=図書館」と実体物を保存する「MUSEUM=博物館、美術館」、そして公的記録の保管庫である「ARCHIVES=公文書・記録保管所」だ。明治期以降、日本には急速に西欧文明が流入するが、国立国会図書館、国立博物館などとして先の二つが導入された一方、なぜかアーカイブだけが抜け落ちた。

 「京都デジタルアーカイブ研究センター」(2000−04年まで活動、現在は解散)は文化や歴史、芸術的な史料をコンピューターに記録して永遠に保存するとともに広く内外に情報発信し、知的財産として他の用途への転用を目指そうという先進的な試みのもとに開かれた。

 経済界からの資金と、京都の強みである歴史・文化力、デザイン力、ブランド力、創作力をテコに、京都の持つ文化的な遺伝子をデジタル保存。二条城の障壁画や高台寺蒔絵(まきえ)、京都市美術館所蔵品といった美術品のほか、西陣織や友禅の伝統的な模様もデジタルアーカイブ化した。ここからコンテンツビジネスや知的財産管理、ブランド創出などの成果が生まれ、政府の文化遺産オンラインやNHKアーカイブス、電子図書館化にも大きな影響を与えた。

 デジタルアーカイブのもう一つの狙いが観光だ。京都市への観光客数はここ10年にわたって増え続け、昨年には4700万人を突破した。「入洛観光客5千万人」を目標に、「花灯路」などオフシーズンでの集客イベントに力を入れたほか、伝統産業の振興、各業界とタイアップした広報宣伝、外国人誘致などの施策の成果である。

 モナリザのデジタルアーカイブがルーブル美術館の人気をさらに高め、フランスへの観光客を増やしたように、京都デジタルアーカイブも京都の観光宣伝に少なからぬ貢献を果たしている。外部への持ち出しや展示に制限のある国宝や重文級の史料も、デジタルアーカイブ化し、レプリカやデータにすれば持ち出しが可能に。画像は高精細で、インターネットを使えば瞬時に地球の裏側にまで送信できる。こうしたデジタル化のメリットが出版・放送業界を刺激し、雑誌を中心とした「京都ブーム」の原動力となった。

 先進的で華やかなイメージを持つ人も多いかもしれないが、デジタルアーカイブは基本的には地味で丹念で息の長い作業だ。その当時には価値を持たない情報も、50年後、100年後に突然見直されることがある。情報はそれが意味を持つ時代の価値観で評価されるべきで、今はまずありのままをアーカイブ化しておくことが大事だ。

 デジタルアーカイブも観光も、持続可能な仕組みにするには人材育成が欠かせない。政府の知的財産戦略や観光立国戦略を受け、全国の大学で関連の学部・学科が新設・拡充。デジタルアーカイブ専門の学芸員や観光企画を推進する人材が育ちつつある。

 接客など観光の最前線に立ち、京都固有の「もてなしの心」を体現する若い世代ももっと必要だ。デジタルアーカイブで史料の保存を進める一方、観光客をつなぎ留めている「京のこころ」も貴重な観光資源として伝えていかれなければならない。

しみず・ひろかず 1945年京都市生まれ。京都大法学部卒。京都市産業観光局理事、京都デジタルアーカイブ研究センター副所長、観光政策監を経て2006年から現職。専門は観光学。

[京都新聞 2006年11月16日掲載]